残っていれば化けていた? 都市を駆けた廃止26年の鉄道「今は不便になった」 “LRTみたいな構造”がアダに?
日本海側の主要都市を1990年代後半まで駆けていた「路面電車」の車両が保存され、来訪者の目を楽しませています。宇都宮や富山で重宝されている次世代型路面電車(LRT)になる可能性も秘めていた路線は、なぜ消えてしまったのでしょうか。
「BRT」はできたけど…
軌道線だった区間を含めた新潟駅―青山間は今、新潟交通が運行する基幹バス路線「萬代橋ライン」が、平日朝夕の通勤通学ラッシュ時に5分おきの高頻度で運行されています。新潟市の学識者らでつくる検討委員会の提言を受けて2015年に整備され、新潟市が負担して連節バスが導入されました。

この「萬代橋ライン」は当初、「BRT(バス高速輸送システム)」を名乗りましたが、BRTの要件であるバス専用車線は導入されないまま24年にBRTの名称が廃止され、表示類も「BUS」へ改められました。
新潟市ほどの大都市ならば、輸送力と脱炭素化の両面で優位性があるLRTを建設し、低床式車両を運行させる方が望ましいと筆者は考えています。
マイカーの普及と利用者減少で包囲網が狭まって廃止された新潟交通電車線がもしも残っていれば、“織り込み済み”だった萬代橋への線路敷設を含めて、新潟駅前への延伸が実現する日が訪れたかもしれません。その場合には地元住民に加えて観光客の足にもなり、低床式車両が萬代橋を渡る姿は新潟市の新名物になったことでしょう。
保存電車、どうやって動かすの?
もしも電車線が残っていたなら、と惜しまれる電車線ですが、前出の通り2025年9月28日には「かぼちゃ電車保存会」のメンバーがモハ11号を片道約50mにわたって走らせます(乗車は有料)。平田 翼会長は「アント(車両移動機)で車両を牽引でき、圧縮空気でブレーキや自動ドアを動かし、扇風機や照明は100V電源で駆動可能です」と説明します。
旧月潟駅周辺には架線と架線柱が残っていますが、平田会長はパンタグラフから集電して走らせることは「技術的には可能だが、経済性やその後の維持管理まで考慮するとハードルが非常に高い」と打ち明けます。というのも、運行中と同じように架線に直流1500Vの電気を流して車両を動かすには「供給できる設備の建設と架線・架線柱の修復が必要で、その後の維持管理にも専門の管理者が必要なため」です。
一方で平田さんは将来の「夢」として「乗車体験の機会を増やしたり、アントで牽引する形で貸し切り運行や運転体験を実施したり、線路の延伸、車庫建設を検討している」と明かしました。運行終了から四半世紀余りが過ぎても、「かぼちゃ電車」の現役時代を追体験できるのはとても貴重です。「かぼちゃ電車保存会」の活動に敬意を表するとともに、さらに発展して乗車機会が広がることを期待したいと思います。
Writer: 大塚圭一郎(共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員)
1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学フランス語学科卒、共同通信社に入社。ニューヨーク支局特派員、ワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。「乗りもの」ならば国内外のあらゆるものに関心を持つ。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。
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