「もったいない」は間違い? 鉄道車両の寿命が短くなったワケ 新車導入にも”ビッグデータ”が大きく影響
まだ新しいJR車両が次々と引退する姿は「もったいない」と思われがちです。しかし、それが「適正寿命」という合理的な経営判断の結果だとしたら、どうでしょうか。
「LCC」が変えた設計思想
東北・北海道新幹線ではE5系(H5系)の後継となる「E10系」の開発が進められ、在来線でも2025年度下期からディーゼルハイブリッド車「HB-E220系」の導入が予定されています。

E5系新幹線がデビューしたのは2011年3月のこと。登場からまだ15年ほどしか経っていません。振り返ると、ひと昔前は電車や列車はもっと長寿命でした。たとえば東海道・山陽新幹線の初代車両である国鉄0系は1964年の東海道新幹線開業以降、1986年まで22年にわたって製造され続け、2008年まで営業運転で走り続けました。じつに44年間です。
在来線に目を向けても、同時期に登場した国鉄113系は、いまだにJR西日本で使われており、じつに60年以上現役です。これら国鉄時代の鉄道車両と比べると、JR発足後の車両は明らかに寿命が短くなっているように感じます。
その理由は、鉄道車両に対する考え方が「長寿命」から「適正寿命」へと変化したことが大きいでしょう。
この変化の起点は、1993年に登場したJR東日本の209系です。この車両は、導入コストだけでなく保守整備費用や電力使用量まで含めた「ライフサイクルコスト(LCC)」を最小化する思想で設計されました。
結果、209系は「寿命半分=使い捨て」という誤解を生みましたが、真意は異なります。
下地にあったのは、税法上の耐用年数である13年という節目を迎えた時点で、「廃車・置き換え」「更新・転属」「継続使用」の中から、最も経済合理性の高い選択肢をデータに基づいて判断するという柔軟な経営戦略です。
LCCの考え方を実現するため、電力消費と保守整備の手間を大幅に削減する「VVVFインバータ制御」や、塗装が不要で維持費を抑えられる「軽量ステンレス製車体」といった技術が積極的に採用されました。
「適正寿命」を最適化するメンテナンス革命
この考え方は、いまではJRにとどまらず私鉄や地下鉄などにも波及し、各社で採用されています。そうしたなか、車両の引退時期、すなわち「適正寿命」を判断するものさしも進化を続けています。それが、IoTセンサーとビッグデータを活用した「状態監視保全(CBM)」です。

これは単に「壊れる前に直す」だけでなく、より高度な経営ツールとして機能します。
集められたデータは、個々の部品を交換し続けるコストの総和と、車両全体を新型に置き換えることで得られるメリット(燃費向上など)を天秤にかけ、最も合理的な引退時期を算出するために使われます。
この視点に立つと、古い車両を使い続けることが、いかに大きな「機会損失」を生むかがわかります。エネルギー効率が悪く、維持費も高い旧型車を走らせ続けることは、得られるはずだったコスト削減効果を日々失っている状態です。
新型車を導入するコストよりも、古い車両を使い続けることで電力使用量の無駄や保守整備費用が増大する方が非効率。こうした状況が判明するようになったことで、昔よりも鉄道車両の寿命は明らかに短くなっているのです。
現代の鉄道事業における本当の「浪費」とは、まだ使える車両を早々と引退させることではありません。むしろ、機会損失を生み出しながら旧型車を使い続けることこそが浪費であり、計画的な置き換えは極めて合理的な経営判断と言えます。
利用者サイドからしても、個々人の好き嫌いは別として、新型車両の方が総じて評判は良いでしょう。企業価値の向上、ブランドイメージの維持という点からも新型車両を定期的に入れることで生まれる効果は計り知れません。
これらを鑑みると、将来の鉄道車両は「使い捨て」というよりも「適切な寿命」で入れ替えられることが多くなると見込まれます。
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