「そんな鉄くずどうするんだ」で始まり、今はリピーター続出!? “日本最長の保存鉄道”どうやって維持? 冬はマイナス30度の地
りくべつ鉄道は5.7kmの廃線跡を動態保存に活用しています。列車の運転体験は日本最長の距離を誇り、全国からファンが集います。
保存鉄道の「運営資金」どう確保してる?
ところで、保存鉄道は洋の東西問わず、ボランティア運営が基本です。りくべつ鉄道でも、商工会の青年部と女性部、役場職員などが第2・第4土日にボランティア活動の一環で関わっていました。しかし、モチベーション維持はなかなか難しいものです。行政の仕組みとして、町や商工会が立ち上げた保存鉄道といえども、利益は配当できません。
そこで、商工会役員達が出資した有限会社「銀河の森」を興し、運行に関わる者を職員として所属させました。その後は陸別町が街づくり会社「株式会社りくべつ」を設立。鉄道事業部、物産事業部(物産館の運営)、受託事業部(町営コテージの運営)と三つの事業部を立ち上げ、前会社の職員は鉄道事業部へ引き継がれました。
各事業部にマネージャーを配置し、保安要員等はアルバイトとし、町内で雇用を生んでいます。陸別町という一つの自治体で完結して運営できているのです。
とはいえ、保存鉄道は保守管理に莫大な資金がかかります。銀河線の廃線時、運営費として蓄えていた基金は1市6町で分配されました。その分配基金で、例えばバス転換による経費に充当させたり、鉄道施設撤去費用に充てたりします。陸別町ではりくべつ鉄道のためにも使用しました。その分配基金は10年経過すると一般財源化してもよいのですが、陸別町では基金を残し、メンテナンス費用に充当させています。
それには町長や商工会の理解だけでなく、まちづくりとして保存鉄道が必要な要素なのだという町民の理解も大事です。りくべつ鉄道が開業してから来訪者は増え、リピーターも定着しました。鉄道という観光要素が生まれ、町民の理解も進んでいるようです。
今後は新しい車両や廃線跡の延長をするのではなく、後世にわたって廃止時の状態を維持していくのが目標です。車両は大規模修繕を重ねて維持し、線路の状態も今の雰囲気を残す。言うは易く行うは難しで、その状態を維持するためには、継続的な町民の理解と、町をあげての動態保存への取り組みが大切です。
りくべつ鉄道は開業から17年経過しました。廃止時の町長と商工会が車両だけ持ってきて放っておいたら、静態保存となった可能性もありましたが、町をあげて動態保存へ取り組むことで全国各地から来訪者が増え、町内の雇用促進にもつながっています。
課題は運転士の確保です。来訪者の中にも現役やOB運転士がいるといい、新しい人材を求めています。
「車両も線路も最善を尽くして残していきたいです。何せ、我々は素人なので」
杉本さんは笑顔を残し、午後の業務へと急ぎ足で陸別駅舎へと戻っていきました。
Writer: 吉永陽一(写真作家)
1977年、東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ。フリーランスとして空撮のキャリアを積む。10数年前から長年の憧れであった鉄道空撮に取り組み、2011年の初個展「空鉄(そらてつ)」を皮切りに、個展や書籍などで数々の空撮鉄道写真を発表。「空鉄」で注目を集め、鉄道空撮はライフワークとしている。空撮はもとより旅や鉄道などの紀行取材も行い、陸空で活躍。日本写真家協会(JPS)正会員、日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。
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