日本政府が導入するアメリカの「国民車」とは? 「使う職員がかわいそう」 関税交渉の“ややこしい条件”がコレか

日米関税交渉の一環で、日本政府がアメリカ製ピックアップトラックの購入を検討していることが明らかになりました。しかし自動車業界関係者は、車体の大きさや燃費、メンテナンス体制などから「日本で運転するのには極めて不向き」と指摘します。

F-150が「日本に全く合わない」3つの理由

 F-150が「日本に全く合わない」と断定する自動車業界関係者は、理由の1つとして車体の大きさを上げます。最も小さなモデルでも全長が約5.3m、バックミラーを除いた全幅も2m強あります。日本の一般的な駐車場は長さ5m、幅2.5mのため「停められる駐車場が限られ、ドライバーは駐車場探しに苦労することになりそうだ」と指摘します。

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F-150のEV「F-150ライトニング」(画像:フォード)

 2つ目は、アメリカでも「ガス・ガズラー(ガソリン食い)」と揶揄されているガソリンエンジン車の燃費性能の悪さです。日本の公用車で使われる場合には国庫からガソリン代が支出されることになり、その元手となるのは私たちの税金です。

 一方、フォードはEVモデルの「F-150ライトニング」ならば充電1回当たり300マイル(約483km)走れると自称します。しかしながら、車両価格はさらに値が張ります。

 なお、アメリカで販売されているF-150は左ハンドルですが、日本と同じく左側通行のオーストラリアでは右ハンドル車を販売しています。このため、公用車として導入する場合には右ハンドル車を輸入することが想定されます。

 3つ目の理由は極めつけで、フォードが2016年に日本から撤退していることです。地方整備局はアメ車がほとんど走っていない場所にもあり、安全性を確保するために不可欠な点検や、「アメ車には故障がつきもの」とされる中で修理を受けられるのかは疑問符が付きます。

 勤務先のニューヨーク支局駐在中にフォードの日本からの撤退を報じた筆者は、フォードが撤退理由として「日本は世界の先進国で最も閉鎖的な自動車市場であり、輸入ブランド全体のシェアは年間新車市場の6%未満に過ぎない」とコメントしたことに言葉を失いました。日本は輸入する乗用車に関税を課していないのに対し、当時でも2.5%の関税をかけていたアメリカのメーカーが「世界の先進国で最も閉鎖的な自動車市場」と指弾するのはあまりにもナンセンスだからです。

 フォード車が日本からの撤退に追い込まれたのは、消費者に購入したいと思わせる魅力に欠けていたからに他なりません。日本市場から淘汰されたメーカーの「日本に全く合わない」製品が公費で投入され、ガソリンを“爆食い”し、さらに政府職員も使うことを望んでいないクルマだったとしたら……。もしもそんな現実が待ち受けているのならば、ため息をつきたくなる納税者は筆者だけではないのかもしれません。

【日本(政府が)導入?】これが「アメリカで2番目に売れている車」です(写真)

Writer:

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学フランス語学科卒、共同通信社に入社。ニューヨーク支局特派員、ワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。「乗りもの」ならば国内外のあらゆるものに関心を持つ。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。

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