タイヤで走る「装輪戦車」アジアで大増殖中! その“今っぽい”理由とは? キャタピラ式は時代遅れに?
タイで新型の装輪戦車「ガーディアン-T」が発表されました。実は今、台湾や韓国などアジア各国で同様の車両開発が活発化。履帯ではないタイヤ式の戦車が増えているのには、納得の理由がありました。
台湾・韓国・中国でも開発が活発化
台湾でも105mm戦車砲を搭載する装輪装甲車の開発が進んでおり、2025年9月に台湾・台北で開催された防衛・セキュリティの総合イベント「TADTE」(Taipei Aerospace & Defense Technology Exhibition)では、「チーター」と呼ばれる装輪戦車の試作車が展示されていました。
「チーター」は台湾陸軍が運用している8輪駆動の装輪装甲車「CM-32」をベースに開発されています。走行能力、防御力、攻撃力は16式機動戦闘車やガーディアン-Tと同等ですが、台湾への防衛装備品輸出を法制化しているアメリカ以外の国から防衛装備品を輸入できないお国柄を反映して、ほぼすべての構成部材を台湾が自主開発しており、台湾が知的財産権を所有する初の装甲戦闘車両であることが特徴です。
韓国のハンファ・ディフェンスも2025年10月に開催された防衛装備展示会「ADEX2025」で、やはり8輪駆動の装輪装甲車に105mm戦車砲を搭載する「MCV-105 タイゴン」を発表しています。韓国陸軍や韓国海兵隊には今のところ採用の予定は無いようですが、ハンファ・ディフェンスはサウジアラビアやペルーなどへの輸出を見込んで開発したようです。
中国も8輪駆動の装輪装甲車に105mm砲を搭載した「11式105mm装輪突撃車」の運用を2011年から開始。中国陸軍と中国海兵隊に1,000両以上が配備されています。
なぜ今「装輪戦車」なのか?
戦車駆逐車という兵器自体は第二次世界大戦時に確立されていましたが、当時の装輪装甲車は大口径の戦車砲を搭載するほど性能は高くありませんでした。このため第二次世界大戦時から近年までの戦車駆逐車は、履帯(キャタピラ)によって走行する装軌式車両が主流を占めていました。しかし現在では装輪式が主流となりつつあります。
装輪戦車は装軌式戦車に比べて防御力と攻撃力では引けを取りますし、不整地での機動力では装軌式戦車には及びません。このため敵対勢力の戦車と正面から撃ち合う任務や、不整地での敵陣突破などの任務には適していません。しかし近年では装輪装甲車や搭載する火砲、射撃統制装置などの能力が大幅に向上したため、歩兵(普通科)部隊への火力支援や敵対勢力の装甲車への攻撃といった任務であれば、装軌式戦車には大きく引けを取りません。
また装軌式戦車に比べて価格が安く、装甲防御力を抑えた分、重量も装軌式戦車に比べて軽減されていますので、艦艇や輸送機での輸送が容易に行えます。
装軌式車両は長距離を自走する前提で設計されていませんし、仮に道路を長距離自走すれば、履帯により大きなダメージを与えてしまいます。このため通常は鉄道や専用のトレーラーによって戦場の近くまで輸送されます。今は各国で高速道路網が整備されました。装輪戦車は高速道路などを自走して、装軌式車両よりも迅速に戦場に展開することができます。
日本をはじめとするアジア各国で装輪戦車の開発が活発化している理由の一つは、開発国や輸出想定国の道路網の整備が進んでいることにもあると筆者はみています。
Writer: 竹内 修(軍事ジャーナリスト)
軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。





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