「落ち葉がひどいので特別ダイヤにします」なぜ都市の地下鉄まで!? 原因は自分たちで植えたジャングル 900万人都市を支えるなんとも壮大な“覚悟”
列車にとって、秋の落ち葉は遅延や運休を招く「自然災害」といえます。そのため一部の鉄道運行事業者は「落ち葉ダイヤ」を導入していますが、大都市ロンドンの近郊でも同様です。
落ち葉は「地球の未来のため」
落ち葉の多くは、線路脇の“ジャングル”から降ってきています。近年、英国では線路脇にただ単に人工的な柵を設けるよりも、樹木による生垣で鉄道の安全を守る選択がされています。「生垣」という言葉から想像しがちな、きれいに刈り込まれた低木の生垣ではありません。3.5mを超える高さの、鬱蒼と茂った、まるでジャングルのような緑地帯を線路脇に設けるのです。
これにより、蜂や鳥の生態系に良い影響を与え、二酸化炭素の除去や騒音対策、洪水対策にも一役買える、という発想です。
こうした動きは、イギリス・ロンドンに本社を置く大手電気通信事業者「ブリティッシュ・テレコム(British Telecom)」で管理職などを務めたジョン・ヴァーリー氏という、たった一人の人物が2010年に行った提言から始まりました。英国の線路沿いの落ち葉は、いわば、地球の未来のために覚悟を決めた、意図的な落ち葉だといえます。鉄道発祥の地である英国ゆえに、一歩先に進んだ哲学で動いているのかもしれません。
地球の未来のためにと覚悟を決めた落ち葉ですから、その処理にも様々な努力がはらわれています。英国の鉄道路線の大半を管理するネットワーク・レイル社によると、3万2千kmに及ぶ線路沿いに、秋には約5000億枚、重さにして数千トンの葉っぱが落ちるそうです。同社はその対策に毎年数百万ポンド(100万ポンドは約2億円)の予算を確保し、80人の従業員が24時間体制で臨んでいるそうです。
また、落ち葉対策用の作業列車を70機ほど所有しているといいます。線路上に付着した落ち葉由来の鉄化合物を高圧噴水で除去した後に、滑り止めのために砂と鉄の粒子を含んだジェルを塗布するそうです。また、一部の作業車には線路の状態を測定しながら走り、集めたデータを基に滑りやすくなっている箇所をGPS(全地球測位システム)と4G(第4世代移動通信システム)回線を使用して作業員に知らせる機能が搭載されているそうです。
こうした専用列車は、鉄道網を維持するために年間延べ104万マイル(約1億4000万km)も走行します。これは月まで2往復するのに相当するそうです(ネットワーク・レイル社のサイトによる)。月まで2往復したとしても、鉄道と地球の未来を共存させたい――そんな英国鉄道業界の覚悟が見える「落ち葉ダイヤ」でした。
Writer: 赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)
アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。





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