日本も原潜「持つべき? まだ早い?」 実は“洗浄便座”が重要なカギかも? 「ミクロな視点」で見る原潜保有論

昨今、日本国内でにわかに盛り上がりを見せている原潜保有論。これについて、とかく戦略面を含めた大きな視点からの議論が多いなか、見過ごされがちな論点が「人」です。そこで、原潜保有論を「温水洗浄便座」というミクロな視点から論じてみます。

肝心なのはやはり「人」 原潜議論で見過ごしてはならない論点とは

 ミクロな乗員視点で原潜のメリットを挙げると、行動時間と範囲が飛躍的に広がることで任務への意識が高まること、艦内生活環境の改善、原潜を動かすという技術者としての自己充実感、さらにはキャリアや待遇面での実利などがあるでしょう。

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原子力機関を扱うには高度な専門教育が必要だ。アメリカ海軍の原子力学校(NPS)のカリキュラムは米軍で最も過酷なものの一つとされる(画像:アメリカ海軍)

 一方、デメリットも無視できません。原潜自体は無補給連続潜航が可能ですが、乗員のストレス耐性には限界があり、世界の原潜保有国では、連続潜航期間は約2か月が一つの目安とされています。艦が大型化し乗員数が増えれば、少数精鋭ゆえの強いチームワークが希薄になる懸念もあります。教育と訓練の質・量は格段に増加し、原子炉を扱う精神的負担も重いものとなります。

 日本の原潜保有論では、建造費や維持費が莫大であることや、国内の根強い核アレルギーの存在がしばしば議論を止めてしまいます。しかしミクロ視点で見れば、本質はもっと足下にあります。「その艦を動かす人をどう確保し、どう守るか」、ここを抜きにした議論は成立しません。

 現在でも、自衛隊は深刻な人手不足に悩まされています。潜水艦乗員になるには適性もあり、志願者が単純に増えればよいというわけでもありません。まして福島第一原発事故以来、日本では人材の原子力離れも指摘されている状態です。原潜の運用には、原子力と潜水艦双方の高度な専門性を有する人材が不可欠であり、その育成には長い時間がかかります。

 日本が原潜を保有する方向に動けば、海洋国家として戦略的選択肢が広がることは間違いありません。しかし、温水モードの快適さが手に入る一方で、日本全体が本当に「気持ちよく」なるかは別問題です。潜水艦の洗浄便座という極めてミクロな話ではありますが、原潜という巨大な戦略アセットを動かすのは、乗員の日常の積み重ねにほかなりません。

 厳しい安全保障環境のなか、原潜保有の議論自体は必要でしょう。しかし、温水モードのスイッチを押すよりもはるかに重い「原潜保有」という選択肢を、日本が押すべき時期はまだ来ていないのではないでしょうか。

【これが潜水艦の「温水洗浄便座」です!】まだまだ真新しい潜水艦のトイレを見る(写真)

Writer:

1975(昭和50)年に創刊した、50年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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