日本も原潜「持つべき? まだ早い?」 実は“洗浄便座”が重要なカギかも? 「ミクロな視点」で見る原潜保有論

昨今、日本国内でにわかに盛り上がりを見せている原潜保有論。これについて、とかく戦略面を含めた大きな視点からの議論が多いなか、見過ごされがちな論点が「人」です。そこで、原潜保有論を「温水洗浄便座」というミクロな視点から論じてみます。

意外と馬鹿にならない潜水艦の「温水洗浄便座」

 日本を訪れる外国人観光客が驚くものの一つに、温水洗浄便座があります。「魔法みたいだ」「未来的で快適だ」という声が聞かれる一方で、「ボタンが多すぎて怖い」など、SNSでも度々話題になります。日本では温水洗浄便座は世界でも突出した普及率を誇り、生活インフラの一部となっています。

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そうりゅう型12番艦「とうりゅう」。リチウムイオン電池を搭載し、従来型より潜航時間が延びている(画像:海上自衛隊)

 この「日本のトイレ文化」は海上自衛隊の潜水艦でも例外ではありません。潜水艦は構造上、使用されるトイレ機器は特殊仕様ですが、そうりゅう型潜水艦「とうりゅう」のトイレにもしっかりと洗浄便座が取り付けられています。新造艦だけでなく、既存艦にも改修で配備が進んでいるそうです。潜水艦にまで洗浄便座を標準化している海軍種組織は、世界広しといえどおそらく日本の海上自衛隊だけでしょう。

 ただし、この優れた「快適装備品」にも弱点があります。温水モードが使えないのです。潜水艦内は寒いわけではありませんが、やはり温水で洗浄できるほうが気持ち良いのは言うまでもありません。では、なぜ温水が使えないのでしょう。理由は単純で、艦内の電力容量に制約があるからです。

 温水洗浄便座は意外と大きな電力を消費します。暖房便座、温水生成、乾燥機能などを併用すると、瞬間的に最大1200~1400Wを消費するとされ、一般家庭では年間電気使用量の2~5%を占めるともいわれています。電力を自艦内で賄わなければならない潜水艦にとっては、バカにできない負荷です。

 ディーゼル機関で発電し、バッテリーに蓄電して電動機で動くディーゼル・エレクトリック方式のいわゆる通常型潜水艦では、バッテリー残量に注意を払わなければなりません。潜水艦艦長は行動中、浮上またはシュノーケルでいつ発電できるかを常に考えているそうで、例えるならば現代人がスマホのバッテリー残量で行動が影響されるのに近いといえます。

 最新の「とうりゅう」などはリチウムイオンバッテリーを採用し、従来よりも大幅に潜航持続時間が延び、各種電子機器も刷新されました。しかし、デジタル装備が増えれば電力消費も増えます。艦内の電力配分は厳密に管理され、乗員の快適性よりも任務上の機能が優先されても致し方ありません。

 そのため、洗浄便座の温水モードは封印されているというわけです。些細な話に聞こえるかもしれませんが、「通常型潜水艦の限界は『電力』に象徴される」というのがポイントです。

 この電力制約がほぼ解消されるのが、原子力潜水艦(原潜)です。原子炉による強大な発電能力は、単純に航続距離や水中速力を伸ばすだけでなく、艦内の電力設計そのものを劇的に変えます。生活区画の電力にも余裕が生まれ、洗浄便座の温水モードも実質使い放題です。これにより、乗員の艦内生活は大きく変わることが予想されます。日本が原潜を持つべきかどうかという議論は主に戦略面、外交面で語られがちですが、実は「ミクロ視点」でも違いがはっきりしているのです。

【これが潜水艦の「温水洗浄便座」です!】まだまだ真新しい潜水艦のトイレを見る(写真)

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