ある意味“奇跡”の映画なのか!?『シベリア超特急』30周年! カルト的人気の理由とは? 衝撃のオチは『シックス・センス』超え!?

かつて映画解説者として人気だった映画評論家の水野晴郎さんが、映画監督兼主演で移動んだ『シベリア超特急』とは?

棒読み演技はもはや魅力だ?

  さらに、本作を語るうえで必ず話題になるのが、水野さん扮する山下大将の“棒読み演技”です。これに関しては弁護の余地がないほど確かに酷いので、あらかじめご注意を……。

 おそらく冒頭の「ボルシチ美味かったぞ」というセリフだけで、「あ、水野さんの演技は厳しいかも……」と確信し、あまりの棒読みに吹き出してしまう人もいるでしょう。しかし不思議なことに、しばらく観ていると、この棒読みが妙に癖になってくる。ここにも本作の“変な魔力”があります。

 本作は殺人事件の犯人を推理するサスペンスですが、その形式は「安楽椅子探偵」型です。

 殺人現場の発見や状況証拠集めは、佐伯大尉役の西田和昭さん、青山一等書記官役の菊池孝典さんがほぼ担当。当の山下大将はクドい登場シーンもなく、ほとんど客室から動かないまま謎を解き明かしてしまいます。

 そのため、水野さんの演技が気にならない場面も意外と多い。微動だにせずポツンと座っている山下大将に、観ているうちにマスコットキャラクターのような可愛らしさすら感じてしまう錯覚に陥ります。

 本作の主人公のモデルである史実の山下奉文は、シンガポール戦で英国軍のパーシバル中将に「イエスかノーか」と降伏を迫った勇猛な将軍として知られています。しかし実際は穏やかな性格だったとも伝えられ、もしかすると案外こんな雰囲気だったのでは……と妙な説得力すら生まれてくるのです。

 水野さんの何とも言えない存在感は、中盤を過ぎるころには気になって仕方なくなる。ここで“ついていける”人は、すでにこの作品の術中にはまっていると言っていいでしょう。

 車掌が殺害されても止まらない列車。登場人物を殺しすぎてサスペンスとしての均衡が崩れかけている展開。車内セットの質感はそれなりに良いのに、まったく走行している感じのしない列車描写……。酷い点を挙げればきりがありません。

 それでも、なぜか観続けてしまう。この魔力は何なのか。

 結局のところ、水野さんの映画愛、そして本作に込められた強烈なメッセージの力としか言いようがありません。

 映画愛については、前述のヒッチコックや市川崑監督の作品を徹底的に研究して作られていることが画面から伝わってきます。拙い演出は多々ありますが、それでも偉大な先人たちを手本に、なんとか面白い作品を作ろうとする気概が感じられる。変に「我」を出していないのも特徴です。

 むしろ、水野さんの映画作りに対する強い執念のようなものが、鑑賞者を引きつけてしまうのです

【画像】「イエスかノーか」これが映画のモデルになった山下奉文中将(当時)が降伏を迫る様子です

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