「車輪の戦車」なぜ世界のトレンドに 陸自16式機動戦闘車に見るその背景

「即応機動連隊」の主装備へ

 16式機動戦闘車の主たる武装は、砲塔に据えられた52口径105mmライフル砲です。10式戦車や90式戦車が搭載している120mm砲よりは小さく、打撃力は劣ると思われがちですが、最新の「91式105mm多目的対戦車りゅう弾(特てん弾)」などを使用することで、さほど大きな差は出ないと言われています。また74式戦車の戦車砲弾も使うことができるので、運用効率も高いです。

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16式機動戦闘車は105mm砲を搭載し、同じく105mm砲を搭載する(口径長は異なる)74式戦車の砲弾が使用できる(画像:陸上自衛隊)。

 最大の特徴とも言えるのが、100km/hで自走する事が可能である点です。すでに高速道路での走行試験も行っています。重量は26t程度ですので、空自が運用を開始したC-2輸送機に載せることもできます。このように、機動展開能力は戦車と比べものにならないほど高く、装甲車と行動も可能です。

 防衛省は、2013年に「統合機動防衛力」という新戦術を打ち出しました。これまでの「動的防衛力」は既存の部隊を展開させることを考えてきました。しかし、仮想敵が中国であることを考えると、その必要もありません。

 仮に中国が日本侵攻を考えたとすると、まずは歩兵や装甲車等で構成される陸上勢力を送りこんでくるからです。敵からしても戦車はやはり重すぎます。

 まず日本版海兵隊である水陸機動団(2018年3月新編)を南西諸島部へと送り、敵が上陸する前に防御陣地を構築します。次に16式機動戦闘車を送り増強します。この時点で敵に島を奪われたら奪還していきます。ここで戦車部隊などを逐次投入していき、圧倒的打撃力で制圧します。

 16式機動戦闘車であれば、空自の輸送機で迅速に移動できますし、初動対処としての打撃力は十分だと考えられます。戦車のような移動に時間のかかる部隊を後回しにすることが出来るので現実的な戦術と言えるでしょう。

 この16式機動戦闘車を配備するのが即応機動連隊という新しい部隊です。現在は、その母体となる、第15普通科連隊(善通寺)、第42普通科連隊(北熊本)に配備されています。2018年3月末にこれら部隊が改編され、即応機動連隊となります。来年以降もいくつかの普通科部隊が改編されていく計画です。

【了】

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Writer: 菊池雅之(軍事フォトジャーナリスト)

週刊誌カメラマンを経てフリーの軍事フォトジャーナリストとなる。安全保障をテーマに世界中を回り、週刊誌や専門誌等に執筆。最近ではテレビやラジオ出演、講演などもこなす。「イチから分かる自衛隊最前線レポート」(EX大衆・双葉社)、「最新国防ファイル」(夕刊フジ)など連載を多数持つ。

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コメント

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3件のコメント

  1. 特てん弾とは特別てん実弾の略語で、炸薬の代わりにダミーウェイトを入れて弾道試験に使用する弾薬です。
     

  2. 機動戦闘車は、あくまで先陣であり戦車隊到着までの繋ぎ的存在。戦車に置き換わるモノではない。
    戦車戦には不向きである。
    現にイラク戦の時は後方配置されていた。
    使い方次第。

  3. 別名を高圧試験弾だったかな?許容誤差上限まで弾丸を重くして、発射装薬を砲身の耐圧限界になるまで増量した、砲身の破壊寸前状態をテストするヤバい弾。砲身の製造に手抜きが有ると、バナナの様に炸裂したりする。
    よって、遠隔操作で安全に射撃操作がなされる。
    しかしながら、HEAT弾と違い、榴弾のケースに鉄合金を流し込んでいたりするので、予期しない場所まで飛んだりする。