安すぎないか、高速バス 「首都圏~京阪神2000円以下」が成り立つ仕組み

ホテル・航空の手法を運賃設定に導入した「高速ツアーバス」

 ちょうどそのころ、「高速ツアーバス」が成長しつつありました。これは法的には旅行会社が企画実施する募集型企画旅行(バスツアー)の形をとりつつ、内容は観光や宿泊を伴わず都市間移動だけで、利用者からみると従来の高速バスとほぼ同じにみえる商品です。乗合バスではなく旅行商品ですから、旅行会社が自由に価格(旅行代金)を決定することができました。

 高速ツアーバス各社は、急成長していたウェブ予約を活用し大都市間路線で需要を喚起します。その過程で採用したのが、「レベニュー・マネジメント(RM。イールド・マネジメントともいう)」という手法です。データ分析により需要を細かく予測し、価格などをきめ細かく変動させる手法で、ホテルや航空業界ではすでに定着していました。大ざっぱに言えば「需要が小さい日には価格を下げ乗車率を確保し、逆に満席確実の繁忙日には価格を上げることで、収益を最大化する手法」です。

 筆者(成定竜一:高速バスマーケティング研究所代表)は、もともとホテルの社員としてRMを担当した経験があり、当時は大手総合予約サイトの高速バス予約部門でトップを務めていましたから、高速ツアーバス各社にRM導入を働きかけ、具体的に手法を伝えました。当初、「ホテルでは通用するけどバスには合わないよ」と言っていた各社ですが、実際に導入してみると、収益性が目に見えて向上しました。中古車両が中心であった高速ツアーバス各社が、豪華座席、待合ラウンジなど車両やサービスに資金を回せるようになり、それがまた新しい需要を生むというサイクルが回り始めました。

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「VIPライナー グランシア」。運行する平成エンタープライズは高速ツアーバスから乗合バスに移行した事業者のひとつ(中島洋平撮影)。

 2013年、高速ツアーバスは従来の高速乗合バスとともに「新高速乗合バス」へ一本化されますが、その際にもRMの重要性が認められ、「幅運賃」制度として採用されています。運賃を国に届け出る際、上限額と下限額を明記しておけば、その範囲内で運賃を変動させてもいちいち届出は不要になりました。上限額と下限額の差は2割までとされていますが、複数の運賃を並行して届け出ることができるので、実質的には上限や下限の制約はないと言えます。

 さらに、営業所内やウェブサイト上に「予約を受け付けまたは運賃を収受した後、乗車前に運賃額が変更された場合、差額の追徴および払い戻しはいたしません」と明記しておけば、予約受付開始後(販売中)に運賃を上げ下げすることも可能になりました。従来からの高速バス事業者も含め、高速バスの運賃は、事実上、事業者が自由に変動させられるようになったのです。

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コメント

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8件のコメント

  1. 何とも間の悪い28年規制の車両価格の上昇
    ガスで絞めて運賃で緩めるのも解らんではないがね
    嫌な予感がするんだけど

  2. ありまくり。むしろない方がおかしい。
    ツアーバスなんて要らない

  3. 鉄道みたいな安全装置が無い高速バスはまず恐くて選択肢に入らない。
    低料金による客の利便性より、皆の命を預かるドライバーを大事にしてあげて欲しい。
    無理なら廃業するか、資金力のある他社に吸収された方がまし。

    • >鉄道みたいな安全装置が無い高速バスはまず恐くて選択肢に入らない。
      バス・トラック車両での高速道路上に於ける先進支援システムは来年から本格的に搭載され始めます。
      数時間の連続走行が通常である長距離ドライバーにとって、こういったシステムは大幅な負担軽減に繋がるでしょう。
      飛行機のパイロットの様に、高速道路の乗降IC間のみ完全にコンピューター任せにして数時間の休憩が取れるようになれば、一般道での事故は確実に減少します。
      いずれ、高速バスは危険というイメージも払拭されるでしょう。

    • 確かに最近のバナナの叩き売り状態ではダメですね
      長野のスキーツアーバス事故のように一度事故が起きると先ずはアホな先入観丸出しの事故調査から始まり、次はお決まりの運行管理、あの事故では大型経験不足と言うところの操作ミスとかニュートラルで勾配を下りた話まで飛びましたがね。
      調査委員会が車両に異常無しと結論付けた後にバス製造メーカーから足廻りの腐食など他、使用は控えるべき警告文が出てきたりしましたよね
      死人に口無しなんて通用しない証ですね
      物流と同じく無理な発注をした荷主やツアー主催者にメスを入れ続けない限りは自動運転なんぞは製造メーカーの世間体の売名でしかないのですよ
      最近の事業認可がユルユルなのも大問題ですよね
      ジェミニさん仰るところのドライバー雇用体勢などそっちのけで申請されるがままにホイホイ認可して代替えに増車減車は事業者の思いのままでドライバーの負担なんぞは何処吹く風?ですからね
      労力による負担から解放されても運転支援システムでは精神的なストレスからは責任の在処で解放されないでしょうね
      人は石垣、人は城、とはいかないようですね

  4. しかし・・・それでも圧倒的大多数のバスは毎日毎日、判を押したように旅客を無事安全に目的地まで届けてくれる。
    乗務員さん達に対する酷い待遇はキッチリ糾弾して、経営幹部に対しいずれ“キツすぎるお仕置き”を咬ましてやるにしても、まずは乗務員、そして整備員の皆さん達に対する感謝の念を示したい。
    現場の皆々様、本当にありがとうございます。

    • 本来は旅客にしても物流にしても、そこんとこの認識なんでしょ
      良いサービスには投資を?と言ったら大袈裟かもしれませんがね
      タクシー会社の車庫の裏を見れば、廃車を待つ車と緩和と規制の中で揺れ動くドライバー数との台数調整で減車をされたナンバーを外した、まだまだ現役の高年式車や行政処分で事業車から外された号車が眠っているのは異様な光景ですよ
      仰るように事業側は当たり前ですが、利用側も貴方のように裏方を理解していかなければ事業は成り立たないでしょうね

  5. ここ何年かで冠婚葬祭の送迎から事業を始めた会社も急成長したし
    いよいよ外国製の二階建てバスの不具合データが各社に共有されて本格的に長距離に導入されれば風向きも変わるだろうし
    整備を大手に委託している現在はデータ取りの最中と言ったところだろうか?
    ただ、国内バスもガス規制の煽りで年式改良の度に100万単位で値上がりした車両価格にも注視していかなければならないと思うし
    それこそ、イメージ優先の環境大義に、あちらを立てればこちらが立たないでは済まされないのが公共の乗り物の運賃幅であったり関係者の方々の雇用条件であるわけで旅客認可を出すほうの方々にも規制と緩和のバランスはしっかり維持してほしいと思います。