モノレールとは似て非なる「スロープカー」全国に 高低差バリアの解決策、その意外なルーツ

炭鉱から生まれたスロープカー 観光資源としても注目

 スロープカーのルーツは、九州の筑豊炭鉱にあります。福岡県筑穂町(現在は飯塚市)の嘉穂炭鉱を採掘していた当時の日鉄鉱業嘉穂鉱業所が、ベルトコンベアーや従業員運搬用のトロッコを長年自作してきたノウハウを生かし、1970(昭和45)年の閉山とともに、嘉穂製作所を設立しました。当初は工業用のモノレールを取り扱っていましたが、1977(昭和52)年から国の委託により新交通システムの研究を始め、乗用のスロープカーが1990(平成2)年を開発、初めての導入は愛媛県愛南町の松軒山(しょうけんやま)公園でした。

 当時はまだ「バリアフリー」という言葉も一般的ではなく、ゴルフ場への納入が主だったようです。しかし2000年頃から高齢者向けに寺社仏閣や病院の需要が徐々に増加し、現在では公園や観光施設など、従来であればケーブルカーや斜行エレベーター(垂直ではない角度で動作するエレベーター)で対応していた場所にも設置されるようになりました。2014年には設置が550件を超えるまでになっています。

「勾配に強い」という点ではケーブルカーやロープウェイも同様ですが、スロープカーのメリットはなんといってもその安さ・設置しやすさにあります。輸送量によってさまざまですが、個人宅の少人数向けであれば、高級車を1台購入する程度の金額で済むようです。前出のあすかパークレールも2億円弱と、斜行エレベーターなどより安い予算で完成しました。

 設置への手間もかかりません。傾斜に設置するにしても最低限の支柱を建て軌道を渡すだけで、山を大きく削らずに済みます。それ以上に大きいのは、「設置にあたって鉄道の免許が必要ない」ことです。同じ施設を鉄道事業法や索道法に基づいて設置しようとすれば、事業および敷設、運賃の認可、運行計画の届出など、膨大な手間がかかってしまいます。

 速度が遅く、ギアを回転させる電気代がかかるというデメリットはありますが、鉄道を敷くほどでないような距離であれば、スロープカーに分があるのです。

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徳島県鳴門市にあるスロープカー「すろっぴー」。高速道路本線上にあるバス停へのアクセス手段として設けられた。写真は初代車両(OleOleSaggy撮影)。

 あすかパークレールは、バリアフリーの実用性だけでなく、乗りものとしての物珍しさもあり、特に桜の季節には乗車待ちに長蛇の列ができるほどの人気ぶりです。2019年には、「日本三大夜景」のひとつである長崎市の稲佐山で新たにスロープカーが導入される予定ですが、こちらはフェラーリのチーフデザイナーを経験した奥山清行さんが車両デザインを担当、「乗りもの自体を観光資源に」する意図があります。「便利な乗りもの」だけでない用途も広がりつつあるのです。

【了】

※⼀部修正しました(9月18日9時55分)
※記事制作協力:風来堂、OleOleSaggy

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コメント

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2件のコメント

  1. ダム建設の資材運搬用に用いた物を観光用に改装して残してみたり
    ミカン畑の勾配には動力にエンジンを使った収穫したミカンを運ぶ物や
    愛知万博ではリニア式のモノレールがありましたが
    狭い土地を縫って勾配を掛け上がるような使い方なら更にリニアは有効だと聞きましたが
    祖谷モノレールとか遊園地のアトラクション感覚で四季の森林の中を周遊する物や何れも開発用途で使われた物が観光に応用されるのは喜ばしいことですね
    結局は何ができるか?ってことなんでしょうかね?
    最近の工業製品は過剰なコストダウンから車も飛行機も船も就役後にブッ壊れる物が大半ですが、役目を果たした物を応用して観光や人の足に結びつけていく発想は素晴らしいですね。

  2. スカイレールといいスロープカーといい、最近の「乗りものニュース」はマニアックな輸送機関を取り上げてくれてうれしい限りです^^

    これからもこんな記事をどしどしとお願いします!