沿線はほぼダム湖、沈んだ村の縁をゆく秘境路線バス 渇水時には湖底に「村役場」が
高知県大川村は、離島や福島原発事故の影響を受けた自治体を除くと、日本一人口の少ない村です。その村を東西に貫く路線バスは、ダムの湖畔を1時間半近くかけて走りますが、渇水時にだけ、ある光景が見られます。
窓の外はずっとダム 人家はほぼなし
高知県北東部の「早明浦(さめうら)ダム」は、貯水量2億8900万トンを誇る四国最大のダムとして知られ、その貯水量が落ちると、あっという間に香川県や徳島県で断水が発生します。吉野川の上流20km以上にも及ぶダム湖の大半が属する高知県大川村は、人口が2018年現在で374人。島しょ部や、福島原発事故の影響による避難指示などを受けた自治体を除くと、日本一人口が少ない村です。
このダムの湖畔を走り、大川村を東西に結ぶ路線バスが、嶺北観光自動車(土佐町)の「日の浦線」。同社は、2014年まで四国最大のバス事業者として存在した高知県交通から分社化された会社です。日の浦線の起点は、大川村の東隣である土佐町の田井出張所。かつてここが高知県交通の出張所だったころは、高知市内から複数系統の「田井行き」が到着し、さらにいくつもの支線系統が発着していました。
田井出張所を発車したバスは、ダムが建設途上だった1960年代ごろに多くの人で賑わったであろう飲み屋街を横目に街を過ぎて行きます。高い丘をトンネルで抜けると、目の前には広大なダム湖が。 右手に行けばすぐ展望台がありますが、バスは左手に曲がり、森とダム湖に挟まれた狭い道をくねくねと走ります。
土佐町から大川村に入るまでに17のバス停を30分以上かけて通過しますが、ダム湖畔に出てからは、人家はほとんど見られません。土佐町でもこの周辺は元々人口の少ない地域だったそう。大川村に向かう道は県道ですが、これがなかなかの悪路です。ダム湖沿いは急峻な谷の地形で、さらに道路の上にまで木が張り出し、昼間でも薄暗いような鬱蒼とした区間も。ところどころで「落石のおそれあり」の警戒標識も設置されています。
1日3往復運行されるこの路線は、自治体の交付金を受けて土佐町と大川村、さらに西隣のいの町までを1時間半近くかけて結んでいます。ただ、この周辺も道路事情はあまり良くないうえに人家も少なく、小型車両での運行。周辺の他路線も廃止、あるいは予約に応じて運行する「デマンド化」が進んでいます。
水没直前に新築した庁舎、もとの目的に使われた期間は短くても後に全国的知名度を得て観光客を呼べる名物となったのであれば個性ある村おこしとして有意義なのかもしれないですね。