ダムが作り出した「秘境駅」 飯田線の山岳地帯に息づく物語を訪ねて

「秘境で疲弊」の予定だったが…

 地図で確認したところ、現在地は県道430号。対面通行も可能な道路を天竜川に沿って歩いていくと、「名勝 信濃濃いし」の看板が見えてくる。ダムができる前は、急流と岸壁がぶつかることから、川はいったん上流に押し戻される流れをなしていた。そこに上流の諏訪湖から船が流れてくると、一度そこで船首が上流、つまり信濃の方を向いたらしく、それが「信濃恋し」の由来になったとする説もあるらしい。

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為栗駅の近くには天竜川とつり橋がある(2018年8月21日、蜂谷あす美撮影)。

 もっとも、伝承話としては、奉公先の愛知県へ向かうため、愛しい人と別れて川を小舟で下っていた娘が、お守り袋を水中に投げ入れたところ、小さな渦が起こり始め、船がもと来たほうを向き、里に戻ることができた、とういうことになっている。なんであれ、かつての地形を伝説として残している。ちなみにこの伝承が転じ、「小石を投げ込めば恋愛が成就する」ことになっているそうだ。

 縁結びスポットから、さらに少し進むと県道1号に合流する。この交差点に先ほど看板で見た「お食事処」があったが、残念ながらこの日は「定休日」だった。さらに、向こう側にも川が見えた。これがどうやら和知野川で、天竜川の支流にあたる。天竜川がダムのせいで、ひどくよどんだ色合いをしているのに対し、こちらは 底まで青く澄んでいる。

 キャンプ場は健在で、川遊びに興じる親子がいた。私も靴を脱ぎ、ズボンをたくし上げ、じゃぶじゃぶと浸かる。冷たい、気持ちいい。過酷な秘境駅めぐりに来たはずなのに、めちゃくちゃに楽しい。当初の筋書きでは、人の気配だけが残された駅をめぐり、精神的にちょっと疲弊するはずだったのだが、全然予定通りには進んでいない。

 膝下だけの川遊びを楽しんだら、再び駅に戻る。天竜橋まで戻ってきたところで、駅に人の姿が確認できた。この時間に列車はなかったはずだが……。さらに近づいてみると、それは登山の格好をした5人組のおばちゃんであると正体が判明した。とりあえず「こんにちは」と挨拶をし、どこから来たのか尋ねてみると、あっちといって、山のほうを差した。

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