飯田線の「秘境駅」を訪ねて 「不安」と「拍子抜け」の狭間を旅する
愛知、静岡、長野3県の山間部を貫くJR東海のローカル線・飯田線。そこには周囲に人の気配がなく、利用者もほとんどいない「秘境駅」が多数あります。秘境駅巡りの臨時列車には乗らず、毎日運転されている普通列車に乗って秘境駅をいくつか訪ねてみました。
「負けるわけにはいかない」と訪ねたが…
去り行く列車を恨みがましく見ていた。降りなければよかった、降りたくなかった。そんな言葉が喉元までこみ上げてくる。さて、2時間の滞在時間をどう過ごそうか。
ここは飯田線の中井侍駅。人は「秘境駅」と呼ぶ。
秘境駅とは、明確な定義はないが、おおざっぱにいうと「人里離れたところにあり、乗降客が極めて少なく、列車以外でのアクセスが極めて困難な駅」をさす。といっても、別に本物の未開の地ではない。だってそもそも駅だし。運命のいたずらにより、結果的に「秘境」風になったものが多い。
秘境駅の完成までの道程はさまざまだが、分かりやすいのは、人がいて、駅ができ、やがて何らかの事情で人が去り、そして駅だけが置いてきぼりを食らってしまうもの。時間に取り残されてしまった存在ともいえる。
ところでこの秘境駅、鉄道趣味をたしなむ者のあいだでは、人気の分野の一つだ。趣味誌では特集として組まれることもままあるし、第一人者もおられる。ただ、私自身について語ると、実はこれまで、そこまで関心をもっていなかった。旅の醍醐味には「地元の人と会える」があると思っているからだ。人がいないから秘境駅だとしたら、興味の俎上(そじょう)にはなかなかのらない。
そう言いながらも過去に一度だけ意図的に秘境駅に降りたことがある。それは室蘭本線にある小幌駅(北海道豊浦町)だ。
小幌駅はトンネルに挟まれた長さ約80mの谷間にあり、三方を崖に囲われている。残り一方は噴火湾、つまり海。道路は通じておらず、駅でありながら陸の孤島スタイル。かつては近隣に民家もあったそうだが、現在は誰も住んでおらず、通過する普通列車も多い。
そんな経緯から屈指の秘境駅として有名になったが、私が訪れたのは折しもゴールデンウィークの時期。鉄道旅行が好きな「お仲間」ぞろぞろ、少なく見積もっても20人はいた。「どこから来られたのですか?」なんていう会話をしたことも覚えている。確かに秘境駅ではあるものの、不安を駆り立てられるような「秘境駅感」を味わうことはできなかった。
趣味者のあいだでは広く認知されてきた秘境駅だけれども、最近では少しずつ一般の人たちにも知られるところとなってきた。鉄道趣味に生きる者として、負けるわけにはいかない。夏の旅行を兼ねて秘境駅ハイキングに出かけることにした。
目的地としたのは、愛知県の豊橋駅と長野県の辰野駅を結ぶ、全長195.7kmの飯田線。天竜川に沿って走る路線は、渓谷や田園風景、それに南アルプスの山々など、変化に富む車窓を眺められる観光路線である。
トリビアリズムに陥らず、簡潔で情理があり情趣もあって、とてもよい記事。あと、写真をみて、東海の駅名標はフォント、文字バランスともに非常に行き届いているなと改めて感心。そうか茶摘み体験か。いつか飯田線を行ったり来たりしてみたいです。
トイレの心配もあり、なかなか秘境駅巡りができませんが、原風景ならではの自然はやっぱりいいなと思いました。いつか時間を気にせずのんびり行ってみたくなる記事ですね。
ここまでメジャーになってマニアがうようよされて賑やかだったら「秘境感」は味わえなくなってしまうだろう。全国には、アクセスは容易だが乗降客が極端に少なく、マニアも来ない駅はまだたくさんある。そういった駅で「秘境感」、時が止まったような時間を過ごしたい。