日韓GSOMIA失効、どうなる安全保障体制 弾道ミサイル、アジアの安定…今後の影響は?

懸念される「破棄」の具体的影響

 北朝鮮が2019年5月以降に発射実験を行っている短距離弾道ミサイルは、ロシアが開発した弾道ミサイル「イスカンデル」と同様、複雑な機動で飛翔すると見られています。この新型ミサイルは射程が短く、日本にとって大きな脅威とはいえませんが、日本は日本海に着弾した新型ミサイルの情報を収集しています。日韓秘密軍事情報保護協定の破棄により、韓国はその情報を入手することができなくなります。

 また北朝鮮は現在、弾道ミサイルを搭載する潜水艦の開発を進めていると見られますが、たとえばこの潜水艦を海上自衛隊の哨戒機が洋上で発見して、アメリカにその情報を提供しても、TISAの枠組みでアメリカから韓国に情報を提供することは不可能だと考えられます。

 日韓秘密軍事情報保護協定の破棄は日韓両国の弾道ミサイル防衛能力の低下に繋がりますが、現時点で協定の破棄によってこうむる不利益は、日本よりも韓国の方が大きいのではないかと筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。

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2019年5月実施の日米豪韓共同訓練「パシフィック・ヴァンガード19-1」にて。アメリカ海軍「ブルーリッジ」(左)と海上自衛隊「ありあけ」(画像:アメリカ海軍)。

 アメリカ国防総省は8月22日に、「情報共有は共通の防衛政策と戦略のカギ」となるとの声明を発表し、韓国の日韓秘密軍事情報保護協定の破棄に懸念を示すと共に、「アメリカと日本、韓国が結束できれば北東アジアはより安全になる」と述べ、協定の維持を訴えています。

 日韓秘密軍事情報保護協定の破棄による、日本と韓国、アメリカの弾道ミサイル防衛対処能力の低下はそれほど大きなものでは無いという見方が日韓両国にあるようですし、その見方はある程度正しいと筆者は思いますが、アメリカ国防総省も指摘しているように、日米韓の軍事的結束に亀裂が生じたことにより、北東アジア、さらに言えばアジア全体の安定性の低下の方が、より大きな懸念すべき問題であると筆者は思います。

【了】

【写真】北朝鮮のミサイル、この「イスカンデル」が原型か?

Writer: 竹内 修(軍事ジャーナリスト)

軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。

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