なぜ主砲が後ろ向き? 文字通り逆の発想なイギリス製対戦車自走砲が意外と使えたワケ
現場は当然反発したけれど…
前代未聞の後ろ向き対戦車砲が初めて配備された部隊は、もちろん大いに動揺しました。ところがいざ実戦に投入してみたら、これが思いのほか使えることが判明します。
一般的な対戦車砲の、戦車との戦いかたは、撃ち合いではなく先手必殺です。それは戦車に比べ、対戦車砲の装甲が薄いことに由来します。そうなると、獲物を待ち伏せして狙いをすまして撃つことが多くなり、なおかつ撃ったら敵の反撃を受ける前に迅速に移動できた方が生き残れる確率は高くなります。
その点で砲を後ろ向きに装備する「アーチャー」は、射撃と同時に脱兎のごとく逃げることができるため、実は対戦車自走砲としては高い実用性を有していたのです。
こうして当初、応急兵器として誕生した「アーチャー」でしたが、優秀さを証明したことで大戦終結までに655両生産され、ピンチヒッターとしての役割を十分務めました。
また第2次世界大戦後もエジプトやヨルダンに供与され、エジプトは1956(昭和31)年10月に勃発した第2次中東戦争でも、イスラエル戦車部隊に対して使用しています。
しかし対戦車火器の主流が、大口径で砲身が長く反動も強力な対戦車砲から、反動の少ない無反動砲やミサイルに移り、従来の対戦車砲は廃れ、ジャンルそのものがなくなりつつあります。イギリスからエジプトへ供与された「アーチャー」も、1960年代には姿を消しました。
【了】
Writer: 柘植優介(乗りものライター)
子供のころから乗り物全般が好きで、車やバイクはもちろんのこと、鉄道や船、飛行機、はたまたロケットにいたるまですべてを愛す。とうぜんミリタリーも大好き。一時は自転車やランニングシューズにもはまっていた。
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