大規模災害時など「医療拠点になれる自衛艦」3選 「病院船」への変身は可能か否か
自衛艦の最優先用途は国防
いずも型護衛艦の2隻は、すでに各地の大規模防災訓練に幾度も参加しており、民間の医療関係者も交え、負傷者を治療の優先順位で分類するトリアージ施設を含む応急救護所の艦内開設訓練などを実施しています。
しかし、おおすみ型、ましゅう型、いずも型のいずれも、おもな用途がそれぞれあるため、長期にわたって病院船に転用していると、自衛隊の主たる任務である国防に支障が生じます。
そもそも戦闘を主目的にしているので、これら3タイプには船体側面に窓がありません。医療支援も、傷病者の短期収容を想定したものであるため、たとえば感染症患者の長期収容や大規模隔離などには向いていないといえるでしょう。
なお、本格的な病院船の代表格として取り上げられることの多いアメリカ海軍のマーシー級ですが、タンカー船を転用しているため、病室の窓は限りなく少ないです。一方、太平洋戦争中に旧日本海軍が使用した病院船「氷川丸」などは、民間貨客船を徴用して病院船に用いたため、多くの窓や開放空間がありました。病院船とひと口にいっても、構造や設計思想で長期収容や大規模隔離に向くかどうか変わってきます。
もし感染症のパンデミックなどを想定し、多数の民間人感染者を隔離することも想定するのであれば、船体側面の窓が多数あり、サイドデッキも備えたものでないと、病室の閉塞感からくるクレームが出て長期隔離は難しいでしょう。
医療拠点になれる自衛艦は、多くの傷病者に対応できるとはいえ、あくまでも応急治療、すなわち短期収容を想定したレベルでしかないと筆者(柘植優介:乗りものライター)は考えます。
【了】
Writer: 柘植優介(乗りものライター)
子供のころから乗り物全般が好きで、車やバイクはもちろんのこと、鉄道や船、飛行機、はたまたロケットにいたるまですべてを愛す。とうぜんミリタリーも大好き。一時は自転車やランニングシューズにもはまっていた。
傭船されている民間のフェリーは帰宅困難者対策に使えるかもしれませんね。