外観まさに「空飛ぶ円盤」 アメリカが作った円盤型VTOL機どう飛ぶ? 特異な構造と結末

自由自在に飛ぶことの難しさに直面

 VZ-9AVは直径5.486m、高さ2.34mの完全な円形で、機体中央の巨大なダクトファンを駆動するためにジェットエンジン3基を内蔵していました。飛行方法は、機体の中心にあるダクトファンから排気を下向きに噴出させると、機体が高圧のクッションに乗ったようになる、いわゆる地面効果(グラウンド・エフェクト)と呼ばれるものを利用する方法でした。

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オハイオ州デイトンのアメリカ空軍博物館で保存展示されるVZ-9AV。「アブロカー」という愛称が付けられていた(画像:アメリカ空軍)。

 この新技術を用いた試作機は、6月から早速各種テストを始めますが、エンジンのオーバーヒートやダクトファンのパワーロス、機体の安定性欠如など、様々な問題が噴出します。とりあえず試作機の完成から半年後の11月12日に初飛行するも、自由自在に飛んだとはいえない、不安定なものでした。

 その後も安定性の低さや、操縦の難しさは改善されませんでした。加えてコックピットの両脇にジェットエンジンがある構造上、操縦手に対する騒音や熱気がひどく、飛行は15分程度しかできなかったといいます。

 結局VZ-9AVは、1961(昭和36)年12月をもって開発中止となりました。ただし、アメリカ空軍および陸軍が関与し、国防予算が用いられた国家プロジェクトだったため、製作された2機の試作機は、廃棄されずに空軍博物館(オハイオ州)と陸軍輸送博物館(バージニア州)に収蔵されました。

 ちなみに想像図では、兵士が乗り込み対戦車砲を搭載するように描かれていました。アメリカ陸軍は文字どおり「空飛ぶジープ」のような運用を考えていたようですが、仮に実用化にこぎ着けても、機体の安定性が射撃の反動に耐えられたかは大いに疑問といえるでしょう。

【了】

【写真】浮いてる!「空飛ぶ円盤」VZ-9AVの飛翔シーン

Writer: 柘植優介(乗りものライター)

子供のころから乗り物全般が好きで、車やバイクはもちろんのこと、鉄道や船、飛行機、はたまたロケットにいたるまですべてを愛す。とうぜんミリタリーも大好き。一時は自転車やランニングシューズにもはまっていた。

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