名古屋で導入予定ナシの連節バスが走ったワケ もっとスゴイ車両を走らせる「SRT構想」とは?
まだ決めることは山積み、SRTのこれからの課題
名古屋市としては「乗りやすい」「分かりやすい」交通機関を目指していますが、「SRT」の実現に向け、解決すべき課題もあります。
まず名古屋駅および栄の乗り場をどうするかが挙げられます。現在「メーグル」や市営バスの発着場は、JR名古屋駅の自由通路や名鉄・近鉄の駅が集中したエリアから北東に外れています。また名古屋駅の南東には1967(昭和42)年に開設した「名鉄バスセンター」がありますが、こちらは取り壊し・改築が予定されており2022年にも工事に入る予定です。
リニア開業に向けた名駅周辺の再開発が進むなか、名古屋市は「名古屋駅ターミナル近辺での検討調査」で「東側駅前広場にバス乗降場を整備しない」としています。もしSRTを「分かりやすい交通機関」にするのであれば、ひと目で分かる乗り場の検討が必要となるでしょう。
またSRTの運行にあたっては、道路左端の車線を専用・優先レーンに設定して走行路面に区分のためのペイントなどを施す予定ですが、環状ルートは複数の箇所で右折を必要とします。道路が広く車の流れが速い名古屋で、車長約20m近い車両が車線を変更し、安全・迅速に右折することは他の都市より若干ハードルが高いかもしれません。
名古屋では現時点でも、専用レーンを走る「基幹バス」(通常のバス車両)があります。この方式をSRTに使うことも考えられますが、専用レーンが道路中央に設けられており、なおかつ停留所付近では車体左側から乗降する関係上、いったん対向車線側に出るなど、コース全体が蛇行しているため連節バス向きではありません。名古屋市では「PTPS」(信号制御による公共交通優先システム)のほか、「最新の技術開発の動向を踏まえた検討」を行なうとしているので、1980年代にできた基幹バスのシステムよりもシンプルにできる可能性もあります。
ちなみに、もともと市ではLRTも含めて導入を検討していましたが、「新しい軌道の建設は埋設物の移設なども含めた投資がかかる」として、今回のSRT構想に舵を切りました。こうした名古屋市の動きは、1957(昭和32)年に開通した地下鉄東山線のトンネルなどをひと周り小さく建設するなど、経費を抑える伝統の姿勢とも言えるかもしれません。
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Writer: 宮武和多哉(旅行・乗り物ライター)
香川県出身。鉄道・バス・駅弁など観察対象は多岐にわたり、レンタサイクルなどの二次交通や徒歩で街をまわって交通事情を探る。路線バスで日本縦断経験あり、通算1600系統に乗車、駅弁は2000食強を実食。ご当地料理を家庭に取り入れる「再現料理人」としてテレビ番組で国民的アイドルに料理を提供したことも。著書「全国“オンリーワン”路線バスの旅」など。
この際ですから中止含みで基幹バスの不効用も研究してみればよさげですが。