完成するもコロナ禍で就航できぬJR九州対LCCの切り札「トリマラン」特例で運航開始へ

コロナ禍 日韓関係 いつ就航できるのか? 売却の可能性も特例措置

 今回、従来のジェットフォイルとは異なる「トリマランのビートル」が誕生した背景には、2004年度には35万人だった博多~釜山航路の年間利用者数が、LCCの台頭などで18万人など半減していたことがあります。

 そうしたなか、速度を追求するのではなく、「船旅の楽しさ」を提供することによって、LCCとは違った魅力を訴求。また定員の大幅拡大によって、大規模団体の利用も狙います。先述の通り、夜間航行も可能。2019年7月に行われた就航日発表会時の目標は、「クイーンビートル」と従来の「ビートル」で、30万人の年間利用者数です。

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JR九州高速船「クイーンビートル」の「QB CAFE&BAR」(2020年11月24日、恵 知仁撮影)。

 しかし、その向かう先は波高く、視界不良です。

 JR九州は2017年12月、この「クイーンビートル」建造を発表しますが、その後、日韓関係が悪化。そして今年のコロナ禍です。当初、2020年7月の予定だった就航は、いまだ果たされていません。船籍がコストなどで有利な外国(パナマ)で、国内航路への就航もできません(自国内の物資、旅客の輸送は自国籍船に限るため)。

 JR九州は2020年3月期の決算で「投資額を稼ぐことはできない」と判断し、「クイーンビートル」の全額(約61億円)を減損し特別損失に計上。就航しないまま、「クイーンビートル」は別天地へ売却される可能性も考えられる状況になっていました。

 そうしたなか、2020年11月になって動きが起きました。国土交通省からの特例措置で、「クイーンビートル」を国内で運航できるようになる見込みで、博多港を起点に糸島沖、志賀島沖などを周遊するルートがイメージされているそうです。また、年末のカウントダウン運航も考えられているとのこと。

 ただ本来の博多~釜山航路への就航は、コロナ禍による出入国制限、隔離などがなくなり、観光の往来が自由にできる状況にならないと難しいといいます。

 コロナ禍と日韓関係というふたつの視界不良を抱えた「クイーンビートル」。いまだ視界不良で、対LCCといった課題もあるなか、少しずつ荒波へ立ち向かっていくことになりそうです。

【了】

【写真】こう見るとよく分かる「トリマラン」の構造 中央にウォータージェット推進器

Writer: 恵 知仁(乗りものライター)

鉄道を中心に、飛行機や船といった「乗りもの」全般やその旅について、取材や記事制作、写真撮影、書籍執筆などを手がける。日本の鉄道はJR線、私鉄線ともすべて乗車済み(完乗)。2級小型船舶免許所持。鉄道ライター/乗りものライター。

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コメント

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1件のコメント

  1. 新たな構造を採用したことにより、もう大型海洋生物とは衝突しないことを願います。