戦車のようで戦車じゃない でも戦車部隊には必須な「89式装甲戦闘車」って何者?
陸上自衛隊の装備には、一見戦車のようで、でもそうじゃないという車両がいくつか見られます。なかでも89式装甲戦闘車は、おおむね戦車のような見た目をしているのですが、その担う役割はまったく異なるものでした。
砲と履帯を備えていればなんでも「戦車」…というわけではない
陸上自衛隊の装備には、一見すると「戦車のようで戦車ではない車両」があります。そのひとつに「89式装甲戦闘車」、通称「89FV」が挙げられるでしょう。世界の軍隊でいうところの「歩兵戦闘車」というカテゴリーに分類される車両です。
この89式装甲戦闘車、陸上自衛隊のいわゆる実戦部隊では、北海道の第11普通科連隊だけが使用しています。このほか自衛官に対する教育を目的として、静岡県に所在する富士教導団隷下の普通科教導連隊、そして茨城県にある武器学校が、少数を保有しているだけです。
89式装甲戦闘車の解説へ入る前に、いわゆる戦車の「役割」について見てみましょう。
戦車は大口径の戦車砲を擁し、圧倒的な攻撃力で敵の戦車や陣地を破壊することができます。そのため、地上戦闘においては戦車が登場するだけで有利に戦闘を進めることができるといわれているのですが、実は戦車にも弱点があります。対戦車誘導弾や、対戦車地雷などの障害物です。
また、戦車は敵の陣地を占領することができません。というのも戦車の乗員は3名から4名程度で、彼らは戦車を動かすプロであっても、小銃などを持って地上戦闘をするプロではないからです。また、戦車自体が発するエンジン音や、排気ガスの臭い、そしてハッチを閉めて車内にいる時の視界の悪さなどが相まって、戦車は敵の陣地に突入しても、岩陰や穴の中に入って身を隠している敵の歩兵などを見つけることは困難なのです。
こうした理由から、敵の陣地を完全に占領するには、どうしても「人」が主力となる普通科(歩兵)部隊が必要になります。
しかし、悪路をものともせず敵の砲弾の破片が降り注ぐ中を進む戦車に、生身の人間が付いていくことはできません。そこで誕生したのが「戦場のタクシー」とも呼ばれている歩兵戦闘車で、繰り返しますが陸上自衛隊の89式装甲戦闘車はこれにあたる車両です。
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