「自衛隊は便利屋にあらず」元陸自トップに聞く 災害派遣の流れと最近の課題
熊本地震から5年。いまでは毎年のように自衛隊が災害派遣で活動しています。しかし自衛隊が活動するためには法的な裏付けと出動までの定められたスキームがあります。元陸自トップに災害派遣の流れと課題について話を聞きました。
46都道府県398市町村に元自衛官が在籍
――そうした安易な自衛隊派遣を避けるためにも、地方自治体との連携は重要になると思いますが、自治体との連絡調整はどのような形で行われるのでしょうか?
ひとつの転機となったのは、1995(平成7)年1月の阪神淡路大震災です。のちに、このときの教訓を踏まえて派遣態勢の改善が図られました。具体的には災害派遣活動の円滑な実施のために必要な権限の付与、災害派遣に係る装備品の充実、地方自治体からの災害派遣要請手続きの円滑化、自主派遣に係る判断基準の規定、地方公共団体との連携強化がなされてきました。
また地方自治体と連携を強化する一環として、「退職自衛官等の地方公共団体防災関係部局への採用」も進められました。その結果、地方自治体の防災部局には2020年3月末時点で、46都道府県に102名、398市区町村に473名、合計575名の退職自衛官が危機管理監などとして在職しています。
これは、地方自治体との連携を強化するとともに、防災を始めとする危機管理への対処能力の向上につながることから大変意義あることです。
――自衛隊が災害派遣で動く意義について、火箱さんはどのようにお考えですか?
自衛隊は過去、大規模震災を始めとして、噴火(雲仙普賢岳や御嶽山など)や風水害(台風や豪雨など)、特殊災害(地下鉄サリン事件や福島第一原発事故など)など多くの災害派遣を実施してきました。またそれ以外にも急患輸送や海難救助、鳥インフルエンザなどへの対処、記憶に新しいところでは新型コロナの感染拡大に対する医療機関への要員派遣などもありました。
災害派遣は、「公共の秩序の維持」という観点で自衛隊が行う応急的な救援活動であり、隊員にとっては困っている地域の人たちを助け、郷土部隊の自衛官としての誇りと自信が芽生えるという、やりがいのある活動だと考えます。
一方、部隊長にとっては訓練では達成できない実オペレーションであり、それを通じて地域との信頼関係強化につながるという側面もあります。
――実際、東日本大震災以降、自衛隊の好感度は上がっています。内閣府の発表では自衛隊に対して良い印象を持つと答えた人は約9割とのことですが、自衛隊の災害派遣で課題はありますか?
繰り返しになりますが、やはり派遣要件である「公共性」「緊急性」「非代替性」のしっかりとした検討は必要と考えます。緊急性が最優先し非代替性の検討がなされないまま、地方自治体の要請に基づいて派遣に応じている場合もあるのでは、と心配しています。
要は「最後の砦」ではなく、「すべての砦」的発想で災害派遣に応じている傾向があると見受けられるのです。自衛隊は便利屋ではありません。あくまでも国家国民を防衛するための組織であり、災害派遣で部隊が拘束されることは必要不可欠な部隊訓練の練度が低下することに繋がり、ひいては防衛任務に支障が及ぶことになりかねないことを、多くの人に認識してもらいたいと思います。
【了】
Writer: 柘植優介(乗りものライター)
子供のころから乗り物全般が好きで、車やバイクはもちろんのこと、鉄道や船、飛行機、はたまたロケットにいたるまですべてを愛す。とうぜんミリタリーも大好き。一時は自転車やランニングシューズにもはまっていた。
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