ポーランド なぜいま「エイブラムス」? 米最新戦車を大量購入 考えうるふたつの事情

ポーランドがアメリカ製戦車「エイブラムス」最新型を大量購入すると発表しました。同国はドイツ製「レオパルド2」戦車のほか、旧ソ連製T-72戦車も運用中です。兵站の不利を差し置いたこの決断、背景にどんな事情があるのでしょうか。

アメリカの「外交カード」としての「エイブラムス」

 もうひとつ考えられるのが、アメリカと西欧諸国との外交バランスです。

Large 20210720 01
ポーランドのカトヴィッツェで行われた軍事パレードにて波陸軍のレオパルド2と米陸軍のM1A2戦車。両国の関係を国民とロシアへアピール(画像:ポーランド国防省)。

 NATOといっても一枚岩ではありません。現在トルコはアメリカや西欧と対立していますが、れっきとしたNATO加盟国です。ポーランドなどNATOに新加盟した東欧諸国と古参の西欧諸国とのあいだには溝があります。歴史的にもお互いに砲火を何度も交えており、82年前にポーランドはドイツ軍(とソ連軍にも)攻め込まれています。一方、アメリカにこうしたしがらみはありません。

 またアメリカは、M1A2を装備した機甲旅団戦闘団をローテーションでポーランドに駐留させ、毎年アメリカ軍が基幹となったNATO演習も行われています。ポーランドの国防にアメリカ軍の存在は必須であり、アメリカと同じ戦車を保有することはインターオペラビリティ(相互運用性)からも有利です。

 M1A2は名実ともに「世界最強戦車」とうたわれるだけあって、アメリカの外交的なカードとしても使われます。トランプ前政権は2019年7月に、台湾へM1A2T(台湾向け改修型)108両の売却を決定して、中国に圧力を加えるツールとしました。ポーランドがM1A2の導入を決めたことは、間違いなくロシアへの外交的メッセージになります。アメリカの対ロシア圧力とポーランドのアメリカに頼りたい事情が合致して、今回の商談成立となったようです。

Large 20210720 02
NATOの演習で損傷した想定のポーランド陸軍レオパルド2A5を牽引回収するアメリカ陸軍のM88A2戦車回収車(画像:アメリカ陸軍)。

 費用について公式発表はありませんが、車両本体と乗員訓練とロジスティックパッケージ、弾薬も併せて233億ズロチ(約60億ドル)といわれています。注目されるのは、今回の調達費は閣僚会議の決議に基づいて国防予算外から計上されるということです。カジンスキ副首相が「非常に良いニュース」と述べたのは示唆的です。

 一方2021年3月4日、ロシアのショイグ国防相がT-14の本格量産を開始し、最初の生産分が2022年から部隊に引き渡されると発表しています。新冷戦はまだ続きます。主力戦車3本立てとなり不利と前述しましたが、そういえば島国日本も74式戦車、90式戦車、10式戦車の3本立てでした。

【了】

【写真】ポーランドのお国事情を象徴するような東西戦車の共演 ほか

Writer:

1975(昭和50)年に創刊した、50年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

最新記事

コメント

1件のコメント

  1. ポーランド侵攻に備えてのことだろう、きっと

記事ランキング

  1. ロシア軍の戦闘機が「真正面から撃破される瞬間」を捉えた映像が公開 ドローンの突入を防げず
  2. 片山さつき大臣「実態調査はじめます」 街のクルマ屋の「保険代理店打ち切り」問題に新局面 ビッグモーター事件の余波に再び切り込む!
  3. 「海自最大の護衛艦」と「世界最大級の軍艦」が洋上で並んだ! 圧巻の編隊航行を上空から捉えたショットが公開
  4. 「USB挿しっぱ」でクルマが“故障”する? 三菱公式の投稿にSNS騒然 「一体ナゼ?」「これマジで起きるよ」
  5. 海自艦がロシア海軍の「超静かな潜水艦」を確認!浮上航行する姿を捉えた画像を防衛省が公開
  1. 家族が「SSSS航空券」を引き当ててしまった…! 乗る前から“異変” 保安検査員も「Oh…」 誰でも起こり得る“緊迫の一部始終”
  2. ETCの手前で「ガシャン!」高速入口に吊るされた「黄色い鎖」の正体は? 傷つく覚悟で“あえてぶつける”超アナログな理由
  3. ロシア軍の爆撃機が「真っ逆さまに墜落」 地上に激突する瞬間を捉えた映像が公開 “巨大な黒煙”が立ち上る
  4. 航行中の護衛艦「かが」の周辺に「巨大な海洋生物」が出現! 艦艇勤務ならではの光景を海自公式が公開
  5. “まるで高速”な無料バイパス「全線4車線化」へ変貌開始! 一部の上下線分離まもなく 対面通行を解消 国道8号