ポーランド なぜいま「エイブラムス」? 米最新戦車を大量購入 考えうるふたつの事情

アメリカの「外交カード」としての「エイブラムス」

 もうひとつ考えられるのが、アメリカと西欧諸国との外交バランスです。

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ポーランドのカトヴィッツェで行われた軍事パレードにて波陸軍のレオパルド2と米陸軍のM1A2戦車。両国の関係を国民とロシアへアピール(画像:ポーランド国防省)。

 NATOといっても一枚岩ではありません。現在トルコはアメリカや西欧と対立していますが、れっきとしたNATO加盟国です。ポーランドなどNATOに新加盟した東欧諸国と古参の西欧諸国とのあいだには溝があります。歴史的にもお互いに砲火を何度も交えており、82年前にポーランドはドイツ軍(とソ連軍にも)攻め込まれています。一方、アメリカにこうしたしがらみはありません。

 またアメリカは、M1A2を装備した機甲旅団戦闘団をローテーションでポーランドに駐留させ、毎年アメリカ軍が基幹となったNATO演習も行われています。ポーランドの国防にアメリカ軍の存在は必須であり、アメリカと同じ戦車を保有することはインターオペラビリティ(相互運用性)からも有利です。

 M1A2は名実ともに「世界最強戦車」とうたわれるだけあって、アメリカの外交的なカードとしても使われます。トランプ前政権は2019年7月に、台湾へM1A2T(台湾向け改修型)108両の売却を決定して、中国に圧力を加えるツールとしました。ポーランドがM1A2の導入を決めたことは、間違いなくロシアへの外交的メッセージになります。アメリカの対ロシア圧力とポーランドのアメリカに頼りたい事情が合致して、今回の商談成立となったようです。

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NATOの演習で損傷した想定のポーランド陸軍レオパルド2A5を牽引回収するアメリカ陸軍のM88A2戦車回収車(画像:アメリカ陸軍)。

 費用について公式発表はありませんが、車両本体と乗員訓練とロジスティックパッケージ、弾薬も併せて233億ズロチ(約60億ドル)といわれています。注目されるのは、今回の調達費は閣僚会議の決議に基づいて国防予算外から計上されるということです。カジンスキ副首相が「非常に良いニュース」と述べたのは示唆的です。

 一方2021年3月4日、ロシアのショイグ国防相がT-14の本格量産を開始し、最初の生産分が2022年から部隊に引き渡されると発表しています。新冷戦はまだ続きます。主力戦車3本立てとなり不利と前述しましたが、そういえば島国日本も74式戦車、90式戦車、10式戦車の3本立てでした。

【了】

【写真】ポーランドのお国事情を象徴するような東西戦車の共演 ほか

Writer: 月刊PANZER編集部

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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コメント

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1件のコメント

  1. ポーランド侵攻に備えてのことだろう、きっと