日本の洋式トイレは旧海軍の戦艦が始まり!?「艦内トイレ」から見た水洗便所の歴史

逆流する潜水艦の水洗トイレ

 さて、同じ軍艦でも潜水艦はどうだったかというと、水上艦に比べて圧倒的に居住スペースが小さいため、少々事情が異なっていました。旧日本海軍で「伊号」と呼ばれる大型の潜水艦でも艦内の区画は上下二層で、下層はエンジンルームや魚雷発射管室になっています。上層は操縦や潜望鏡のある発令所を中央に、艦首と艦尾に兵員の居住区、発令所の後部に士官室という配置で、それぞれ兵員用と士官用の厠が併設されていました。

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第2次世界大戦中のドイツ潜水艦Uボートのトイレ(画像:Petr Kratochvil[CC0〈https://bit.ly/3iJWYPD〉])。

 日本の潜水艦では、水上艦と違って壊れないようにということで便器が陶製ではなくスチール製でした。また潜水艦の乗組員はいったん出撃すると数か月は風呂に入れず不潔になりがちなため、便座を共有する洋式では皮膚病がまん延するおそれがあります。そのため旧日本海軍も潜水艦だけは和式でした。

 これら潜水艦内の厠では、便器を水洗すると、便を汚物タンクにためてから艦外に排出するのですが、潜水艦なので水圧がかかり逆流するおそれがあります。そのため途中のパイプに弁が複数あり、自分の便を流すには、圧力計の目盛りで汚物タンクの内圧を確認しながらの複雑な操作が必要でした。とうぜんですが操作を間違える者がでてきます。そうなると、便器から逆流する悲惨な事態になりました。後始末は失敗した当人の責任でやらなくてはならず、これをやらかして初めて一人前の潜水艦乗りといわれたそうです。

 一方、ドイツの潜水艦Uボートはスチール製の洋式トイレでしたが、ポンプ式水洗のため水圧がかかる潜航中には使えませんでした。第2次世界大戦の後半、ドイツのUボート部隊は対潜技術が向上したイギリスやアメリカに対して不利な戦いを強いられました。

 敵の駆逐艦に追い回されると、長時間にわたってエンジンを止めたまま海中に潜むことも珍しくありません。その間、敵の水上艦艇はこちらを見つけようと水中聴音機で聞き耳を立てているため音を出すのは厳禁です。こんな状況下、ドイツの潜水艦乗組員たちは探知されないようバケツや室内の隅で用を足していたそうで、便を外に流すこともできないため、悪臭が艦内を漂ったといいます。

 こうして振り返ってみると、「艦内トイレ」の歴史は、単に日本の洋式トイレの歴史ということだけでなく、「清潔に用を足す」ということのありがたさを、現代のわれわれに伝えてくれる“伝達者”ともいえそうです。

【了】

【今はどんなの?】自衛艦&潜水艦のトイレほか

Writer: 時実雅信(軍事ライター、編集者、翻訳家)

軍事雑誌や書籍の編集。日本海軍、欧米海軍の艦艇や軍用機、戦史の記事を執筆するとともに、ニュートン・ミリタリーシリーズで、アメリカ空軍戦闘機。F-22ラプター、F-35ライトニングⅡの翻訳本がある。

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