「稼げる高速バスの王道」復活なるか 原点回帰の改革【高速バス新潮流・中距離路線】

河口湖線の改革 四半世紀ぶりの「湖畔に直通」復活

 観光需要の喚起には、運行面でも課題があります。従来は、終日、同じ運行ルートを走り、等間隔のパターンダイヤを組む路線が目立ちました。しかし、乗客のニーズは時間帯によって変わります。前述の通り朝の上り便と夜の下り便は、地元の人向けに、地方側ではパーク&ライド、都市側ではビジネス街や繁華街に直通することが重要です。一方で朝の下り便、夕方の上り便は、観光施設や宿泊施設に足を伸ばすことで、新たに都市側からの観光需要を取り込むことが期待されます。

 例えば新宿~河口湖線は、2021年10月、一部の便が湖畔を半周する形でルートが河口湖生活自然館まで延伸されました。ずっと以前は湖畔の旅館街まで運行していましたが、マイカー旅行の増加などを受け1990年代に河口湖駅までに短縮されていたので、四半世紀ぶりの湖畔路線復活と言えます。

 秋の週末限定で運行される名古屋~馬籠・妻籠線は、古い町並みが残る中山道の宿場町、馬篭宿と妻籠宿でそれぞれ散策時間を確保できるようダイヤに工夫がなされています。手軽に日帰り旅行を楽しめると同時に、バスツアーと違い、宿を取って1泊旅行にするなど自分のペースで旅行することもできます。

 逆に、出発地が多様化する例のひとつが、11月運行開始の八王子~伊香保・四万温泉(群馬県)線です。東京都心の大ターミナルではなく、郊外の駅から温泉地へ向かう新路線です。

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2021年10月22日から運行を開始した宮古・気仙沼~仙台線の車両。三陸道経由で仙台~宮古間はおおよそ250km、4時間10分で結ぶ(成定竜一撮影)。

 今後、感染収束の状況によっては「GoToトラベル」事業の再開が考えられます。前年度の同事業は、旅行会社のツアーは全て対象となる一方、高速バスを利用する旅行にはあまり適用されませんでした。今年度の同事業では、国による制度の運用が、公共交通を利用する個人旅行に使いやすいよう変更されることを期待しています。それと同時に、バス事業者の側も、制度を最大限に活用し新たな観光需要を取り込むため、販売方法などを工夫する努力も求められています。

【了】

【画像】意外な行先が続々!“中距離高速バス”の新路線

Writer: 成定竜一(高速バスマーケティング研究所代表)

1972年兵庫県生まれ。早大商卒。楽天バスサービス取締役などを経て2011年、高速バスマーケティング研究所設立。全国のバス会社にコンサルティングを実施。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員など歴任。新聞、テレビなどでコメント多数。

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