イギリス軍と紅茶の話 必須装備に専用茶葉…淹れ方ひとつで国際的騒動にも
紅茶の淹れ方をめぐって国際問題(?)も
このように、イギリスにおける紅茶文化は軍隊においても深く根付いているわけですが、その様は「紅茶の淹れ方」にも見られ、国を挙げての騒ぎになったこともあります。2020年、あるアメリカ人の女性が動画投稿サービス「TikTok」に紅茶の淹れ方を紹介する動画を投稿したことが、全ての発端でした。
イギリスにおける一般的な紅茶の淹れ方は、ティーバッグにやかんで温めたお湯を注ぎ紅茶を抽出し、そののち砂糖とミルクを加えるという、おそらく大多数の日本人にとってもごく一般的な方法です。
しかし、くだんの動画においてそのアメリカ人女性は「電子レンジで加熱した水道水に牛乳を加えてからティーバッグを投入する」「明らかに大量すぎる砂糖を加える」「(アイスティーの作り方として)抽出した紅茶液に大量の砂糖とさらなる水道水を加えて冷蔵庫で冷やす」など、ともすると暴力的ともとられかねない方法で紅茶を淹れており、これが紅茶を愛してやまないイギリス人たちのあいだで大きな騒動となったのです。
そして、ついにこの問題に関してイギリス政府も動き出します。なんと、当時のイギリス駐米大使がTwitterに「正しい紅茶の淹れ方」を説明する動画を投稿し、そこでイギリスの陸海空軍に所属するそれぞれの兵士が、各々の特殊な環境でいかに紅茶を淹れるのかを説明したのです。
さらに、同年7月4日のアメリカ独立記念日には、イギリス陸軍の兵士が主力戦車「チャレンジャー2」の車上で紅茶の淹れ方を紹介する動画がイギリス陸軍の公式Twitterに投稿されました。そこでは「電子レンジではなくケトルを用意します」という、前述のTikTok動画を意識した台詞や、1773年12月に発生した「ボストン茶会事件(イギリスの植民地政策に反対した人々が、ボストン港に停泊していた船から茶箱を海に投棄した事件)」を念頭に置いた、「ティーバッグをマグカップに入れます。港にではありません」と皮肉を込めた台詞が聞かれました。
このように、イギリスでは一般社会のみならず軍隊においても、紅茶はその淹れ方も含めて、欠かすことのできない伝統文化のひとつとなっているのです。
【了】
Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)
軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。
そうなんですね、そのボストン茶会事件以来USAでは紅茶に好印象はないのでは。翻って英連邦の一員であるシンガポールのマクドナルドのメニューに早くから紅茶があったのを思い出します。こうなったら乗りもの要素ゼロ。
WWIIのころ南洋で日本兵が補給もなく飢えに斃れていたとき、対する米軍の交代要員は後方で休憩中に温かいステーキを食べていたとか。あの時代の日本人には牛肉など口にしたことすらなかった者が多かったことでしょう。
最後の「紅茶の正しい淹れ方」イギリスらしい皮肉がこもってて好き