チャーチルお気に入り「プリンス・オブ・ウェールズ」喪失の意味 新鋭艦なぜ極東へ?
英戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」は当初、英本国艦隊に所属し、独戦艦「ビスマルク」とも砲火を交えましたが、その最期はマレー沖海戦です。東洋艦隊への編入に際し同艦が背負っていたのは、まさに大英帝国の威信そのものでした。
国家の威信を背にイギリス艦艇は極東へ
イギリスの新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃群(CSG21)がインド太平洋地域へ派遣され、2021年8月25、26日に実施された日英米蘭共同訓練(PACIFIC CROWN 21-1)へ参加しました。ちょうど80年前にも、イギリス王室関係の名を冠した戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」がアジアへ来航、イギリス東洋艦隊の中心に据えられています。時代は変われどシーパワー国家の威信を掛けたフネ達です。
ナチスドイツとの戦いに勝利したイギリス首相ウインストン・チャーチルが戦後、著書『第二次世界大戦回顧録』で「戦争全体でその報告以上に私に直接的な衝撃を与えたことはなかった」と述べているのが、1941(昭和16)年12月10日にマレー半島東方沖で日本海軍航空隊によって戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」が撃沈されたことです。
このマレー沖海戦は「戦闘行動中の戦艦を航空機だけで沈めた世界初の海戦」とされ、大艦巨砲主義から航空機へと主役交代の契機になったといわれます。その20年前、1921(大正10)年7月21日にアメリカが実施した、第1次世界大戦の賠償艦であるドイツ戦艦「オストフリーストラント」を標的とする爆撃実験で、爆撃機がこれを沈めたことはあり、航空機が戦艦の強敵になるだろうということは認識され始めていましたが、実戦ではどうなのか誰にも分りませんでした。
航空推進派だった山本五十六連合艦隊司令長官さえも「(巡洋戦艦で防御力がやや劣る)『リナウン』(同型艦の『レパルス』のこと。東洋艦隊へ派遣された具体的な艦名は分からなかった模様)は撃沈できるが、『キング・ジョージV世』(同じく『プリンス・オブ・ウェールズ』のこと)は大破だろう」と発言し、戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」を撃沈できない方にビール10ダースを賭けたといわれます。博打好きだった山本長官らしい逸話ですが、士気を高め、慢心をいさめるお芝居だったのかもしれません。
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