「日本の新鋭軽巡恐るべし」「特異な巡洋艦」世界を震撼させた「夕張」1隻で終わったワケ
完成され過ぎていたがゆえに1人っ子へ
イギリスのエメラルド級軽巡洋艦は、常備排水量7550トン、45口径15.2cm砲7門、53.3cm魚雷発射管12門、舷側装甲38~76mm、最大速力33ノット(61.1km/h)でした。日本の「夕張」と比べると、同級の方が船体は大きく、搭載武装も強力であるものの、片舷に向けられる砲と魚雷は6門ずつであり、「夕張」の方が高速で大きな魚雷を装備していたため、実質的な戦力は大差ありませんでした。
アメリカのオマハ級軽巡は、常備排水量7050トン、53口径15.2cm砲12門(片舷8門)、53.3cm魚雷発射管10門(片舷5門)、舷側装甲76mm、最大速力は35ノット(64.2km/h)なので、「夕張」を同級と比べるとやや劣りますが、性能的には対抗可能な範囲だと言えるでしょう。
前述したように、後年の旧日本海軍のさまざまな水上戦闘艦は「夕張」の影響を受けて登場していますが、イギリス海軍協会誌やアメリカ海軍学会誌でも「夕張のデザインに基づいた新型軽巡」の提案が掲載されるなど、その影響は日本にとどまらず世界中に波及していたほどだったのです。
このように画期的な高性能艦である「夕張」でしたが、問題もありました。航続距離が計画の66%に止まったことや、小型船体の宿命で、航空機搭載といった、時代に合わせた改装が難しかったのです。ゆえに実験的な性格を脱することができず、姉妹艦が建造されることはありませんでした。
結局、「夕張」1隻のみの建造で終わったのはそういう理由からだったと言えるでしょう。
【了】
※写真を修正しました(1月10日14時50分)。
Writer: 安藤昌季(乗りものライター)
ゲーム雑誌でゲームデザインをした経験を活かして、鉄道会社のキャラクター企画に携わるうちに、乗りものや歴史、ミリタリーの記事も書くようになった乗りものライター。著書『日本全国2万3997.8キロ イラストルポ乗り歩き』など、イラスト多めで、一般人にもわかりやすい乗りもの本が持ち味。
オマハの注釈がある写真は夕張ですよね
ですね、
オマハ級は4本煙突だし
拡大画像
アメリカ海軍の軽巡洋艦「オマハ」(画像:アメリカ海軍)。
とありますが、夕張でしょう。
乗りものニュース編集部です。
このたびはご指摘をいただき、誠にありがとうございます。
修正いたしました(写真を差し替え)。
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何卒よろしくお願い申し上げます。