U-2「ドラゴンレディ」のいま 冷戦の空を飛んだ高高度偵察機が担う新たな役割とは?

現代のU-2が担う役割とその先の姿とは

 冷戦終結以降も、U-2はさまざまな役割を担い続けてきました。たとえば冒頭で触れたようなロシア軍に対する偵察活動などの伝統的な役割に加え、洪水や山火事といった災害時における被災地の状況把握などの非軍事的な活動も行っています。

 なかでも、1990年代以降の対テロ戦争においては非常にユニークな任務を担っていました。それはアフガニスタンにおける対テロ作戦においてのことで、敵が道路などに設置したIED(即席爆弾)の痕跡を地上部隊に伝達し、作戦を安全に進行できるようにしたほか、U-2が搭載するセンサーによって敵が使用する携帯電話の電波を捉えて位置を特定し、そこを味方航空機などが攻撃する、という戦術がとられたのです。

 そして現在、U-2に新たな役割を与えるための試験が続けられています。それが、ステルス戦闘機同士の通信を中継するというものです。

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アメリカ空軍やロッキード・マーチンなどが進める新しいデータ共有システムの確立を目指す「ハイドラ計画」の概念図(画像:ロッキード・マーチン)。

 現在アメリカ軍で運用されているステルス戦闘機のF-22とF-35は、それぞれ異なる秘匿データリンクシステム(敵に探知されにくい情報共有システム)を搭載しています。そのため、従来はF-22が捉えた情報をF-35と直接、共有することができなかったのです。この問題を解消する、U-2を介し両者間の通信を可能とする試みが進められています。

 試験に参加するU-2には「アインシュタインの箱(Einstein Box)」と呼ばれるコンピューターが搭載され、これがいわば翻訳機の役割を果たすかたちで両者の通信を中継するわけです。これにより、ステルス戦闘機同士で密かに情報をやり取りでき、さらにそれを地上部隊や海上の艦艇にも共有することで、陸海空一体となった戦闘を行うことができるようになるのです。

 冷戦期に誕生したU-2は、従来の伝統的な偵察活動にとどまらず、初飛行から70年近く経過してもなお新たな役割が与えられ続けているのです。

【了】

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Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)

軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。

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