不可解なるロシア空軍 なぜ誘導爆弾を使用しないのか あるいは使用できない理由とは?

ロシア空軍が誘導爆弾を使えない考えうる理由

 以上のように誘導爆弾は使用者にとって「いいことだらけ」であり、もはや無誘導爆弾による航空作戦はかえって珍しくなっています。しかしながら、なぜかロシア空軍はほとんど誘導爆弾を使っていないようです。

 ロシア空軍は2010年ごろから、所有する軍用機を一気に新型機へと入れ替え、旧ソ連時代の機体も近代化改修を済ませ、先進的な空軍に生まれ変わりました。たとえばスホーイSu-30SM多用途戦闘機やSu-34戦闘爆撃機などはその代表例です。しかし、どんな新型機であっても無誘導爆弾を使っていては、全くその真価を発揮することはできません。

 誘導爆弾は作戦効率も生存性も値段以上に高めますが、やはりどうしても高価であることは事実ですから、恐らくロシア空軍は戦闘機や爆撃機など「見栄えの良い装備」の更新に重点的に予算を割り振り、本当に必要だった「見栄えの悪い誘導爆弾」の調達を軽視していたのではないでしょうか。

 たとえば、ある国の空軍の戦力を測る場合、誘導爆弾の数よりも最新鋭戦闘機の保有機数が多いほうが、平時の抑止力としての戦力は高く見せることができます。実際、いざ実戦という事態になってはじめて弾数が足りない事態に直面する空軍の例は珍しくありません。だとするならばロシア空軍は必要な準備を全くしないまま国家間戦争へ突入し、身の丈に合わない作戦を強いられているといえます。

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ロシア空軍で最も高性能な戦闘爆撃機Su-34。非常に優秀なセンサーを搭載するが無誘導爆弾を搭載している(関 賢太郎撮影)。

 この1か月におけるロシア空軍の損害は、ウクライナ側の発表によると200機を越えました。これはかなり過大である可能性が高いものの、1機あたり数十億円のヘリコプターや戦闘機を大量に損失していることは間違いありません。もし十分な誘導爆弾、特に敵の地対空ミサイルなどを無力化できる対レーダーミサイルが十分にあれば、損害はもっと小さくて済んだに違いありません。

 いまはまだ結論を出すには早すぎますが、ロシア空軍が無差別爆撃を行っているのも「精度が無用な無差別爆撃しか有効な作戦が行えない」からであるかもしれません。

【了】

伝統的なフォルムのロシア製無誘導爆弾FAB-500

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Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。

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コメント

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1件のコメント

  1. そっくりそのまま自衛隊に当てはまりそうですね