ザ・魔改造! 農業用トラクター転用からのイタリア「大砲牽引車」の系譜 旧日本軍も試験
かつて大砲は人力や馬で戦場に運ばれました。自動車が発明されると、車輪がついて馬力のある大砲用の牽引車両、ガントラクターが現れます。その発展のなかで、農業トラクターからの変身も見られました。
シャーシ中央がよじれる不思議な牽引車
トラクターというと、一般的には田畑などで用いる農業用機械を思い浮かべます。しかし、本来はトレーラーヘッドなどを含めて牽引する車両全般を指す言葉でもあります。
ゆえに農業用トラクターと大砲などの重量物牽引用トラクターに近似性があるのも確かで、実際、第2次世界大戦中のイタリア軍では農業用トラクター転用の砲牽引車が配備されていました。今回は、なかでも特徴的な構造を持つM26型と、その後継として生まれた形がユニークなTM40型、2種類の砲牽引車を見てみます。
第1次世界大戦において、各国と比べ砲兵部隊の機械化に遅れをとったイタリアですが、その内実は1920年代になっても変わっておらず、多くの部隊が大砲の移動に馬を用いていました。それに危機感を抱いたイタリア陸軍は、1923(大正12)年に民間企業各社へ砲牽引車(ガントラクター)の試作を発注します。
それに対し、北イタリアのマントヴァにあるパヴェージ社が、4輪タイプの砲牽引車P4型を開発してトライアルを勝ち抜きます。このP4型は、農業用トラクター製造を行ってきた同社が、これまで培った技術を活かして開発したもので、最高速度こそ20km/hと低速ながら、高トルクの52馬力エンジンと大直径ホイールで大きなグリップ力を生むことで、大型野砲や弾薬運搬車などを最大重量4tまで牽引する能力がありました。
面白いのが、このパヴェージ社製砲牽引車、前後に分割されたシャーシが中央で連結されて上下左右に自在に動く点です。前後のシャーシがそれぞれ独立して動くことが可能なため、凸凹のある不整地に対応できるという特徴を持っていました。
また自転車のスポークのような形状をした鉄製ホイールは、このような構造のため軽量で、路面用にソリッドタイヤを上から履かせ、その外側にスパイクのような折畳み式の突起を複数取り付けることで、舗装路でも泥濘地でも問題なく走破できる性能を有していました。
このように数多くの特徴を持って生まれたパヴェージ製砲牽引車は、細かな改良が加えられたのち「M26型」砲牽引車としてイタリア陸軍に制式化され、製造拠点をフィアット傘下のSPA社(ピエモンテ自動車会社)に移して4年間で数百両作られました。
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