“黒海でロシア艦隊撃滅”の先にあるもの ウクライナが決して譲れないワケ 長期化必至か

黒海艦隊の戦力低下がもたらすもの

 黒海に面するNATO加盟国はトルコ、ルーマニア、ブルガリアの3か国。そして、ウクライナとジョージアはNATO加盟の意思を表明しています。このうちロシア黒海艦隊に対抗できる海軍力を有するのはトルコのみですが、地中海への通路となるエーゲ海と黒海を結ぶ要衝、ボスポラス海峡を同国海軍が押さえています。

 ロシア海軍はカスピ海からラプター級高速哨戒艇を陸路で補充しているものの、黒海艦隊の被害が増えると戦力の低下は避けられません。

 つまり、ロシアにとってクリミア半島の失陥は黒海の制海権喪失につながります。前述したムィコラーイウとオデーサを完全占領できないままでの休戦は受け入れられないでしょう。これはロシアからすれば政権が変わっても譲れない条件とさえいえるのです。

 一方で、ウクライナのゼレンスキー大統領も5月3日の声明で、クリミア半島を必ず奪回し、領土問題で妥協はしないと述べています。

 この戦争は最終的にクリミア半島の帰属が焦点になる可能性があります。こう考えると、アメリカのミリー参謀総長が下院軍事委員会で示した、戦争は「少なくとも数年単位になる」という見解が、がぜん現実味を帯びてくるのです。

 果たして、ロシアによるウクライナ侵攻が終わりを告げる日はいったい、いつになるのでしょうか。

【了】

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Writer: 時実雅信(軍事ライター、編集者、翻訳家)

軍事雑誌や書籍の編集。日本海軍、欧米海軍の艦艇や軍用機、戦史の記事を執筆するとともに、ニュートン・ミリタリーシリーズで、アメリカ空軍戦闘機。F-22ラプター、F-35ライトニングⅡの翻訳本がある。

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コメント

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1件のコメント

  1. 第一次、第二次世界大戦中のドイツもそうだけど、こうした海軍が陸地によって戦力を分断されて集中運用できないのは、四方を海に囲まれた日本やイギリスにはなかなか理解しにくい戦略上の悩みの種だね。