“爆走トラック自走砲隊” ウクライナを駆ける フランス供与の「カエサル」いま必要なワケ
ウクライナ軍は「カエサル」どう使う?
初春と晩秋の泥濘期に挟まれた春から夏、そして秋にかけては、ウクライナの大地も乾いているため、装輪式車両は長所である高速での長距離移動を行える環境下にあります。ゆえに「カエサル」も、いまなら迅速な移動能力を発揮できることでしょう。
ウクライナには、他に装軌式のPzH2000やM109、牽引式のM777といった155mm砲が供給されていますが、状況を見ていると、操砲訓練だけで済むM777がまず実戦に投入され、操砲訓練に加えて民間の大型トラックの操縦と整備ができれば運用可能な「カエサル」がそれに続いているように感じます。
特に「カエサル」は、前述したように高速での長距離移動が可能なので、対砲レーダーや砲兵器材、弾薬を搭載した同じ装輪車両に加えて、「ハンヴィー」などに乗った自衛用の歩兵携行地対空ミサイルや対戦車ミサイル「ジャベリン」などを備える護衛班と共同行動をとる形で、急速展開と急速撤収が可能な中隊規模(3~4両程度)の遊撃砲兵チーム、いわゆる急場の「火消し部隊」の一環として運用されている可能性が高いのではないかと筆者(白石 光:戦史研究家)は考えます。
このところロシア軍の熾烈な攻勢が伝えられており、ウクライナ軍の砲兵部隊が攻撃された映像なども公開されているようですが、実際問題として、牽引式砲でもなく装軌式自走砲でもない装輪式自走砲たるカエサルならではの長所、つまり機動性に優れ「使い勝手」も良いという点を、かつての中東戦争時代のイスラエル軍のように、「いくさにおける機転」が効くウクライナ軍がうまく利用しないことはないと思われます。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
コメント