“船長判断”じゃダメ 知床事故受け国交省が厳格化方針 陸運のような制度で安全確保なるか
船長と運航管理者の兼務を禁止
今までも運航管理者は、船長とは別の視点で安全運航を考え、船長の判断を覆す指示ができるはずでした。しかし実際の現場には運航管理者のほかにも、そのサポートをする補助者や代行者が運航管理者の代わりとして存在し、役割や責任が分散していました。
検討委案では、補助者や代行者の選任を廃止。資格を持つ運航管理者に一元化し、安全管理の知識を持つ管理者だけが運航管理を担うように体制を明確化します。
また、船長が運航管理者の資格を得ることはできますが、乗船時間中の船長が運航管理者を兼ねる1人2役は禁止されます。乗船中の船長の責任は変わりませんが、陸から運航管理者が船長と協議して、船長の判断に別の視点を加えることで安全性をより引き上げる――これを制度として初めて明確にします。
さらに上位の管理者である安全統括管理者は、運航管理者、船長を含めた安全管理を事業全体で担当します。運航の基本となる安全管理規定を順守するための経営判断を伴うため、主に事業者の経営層が担う役割ですが、これも十分に機能していませんでした。「知床遊覧船」では、安全管理の知識に乏しい社長が、歯止めとなる仕組みのないまま放任していたことが明らかになっています。検討委案では重要な規定の法令化を進め、運航管理の手順を具体化、記録を徹底させることを義務付けます。
安全意識の低い事業者は「退場」 陸運に近い制度へ
また、管理者の資格試験や更新制度とは別に、経営トップの安全意識を向上させるため、陸の運行管理で効果を上げている「運輸安全マネジメント評価」を小型旅客船でも導入する案が浮上しています。
事業者が安全性向上のための計画を作成し、それを国が評価、さらなる改善計画へつなげる取り組みで、事業の継続も5年ごとに更新する制度を創設します。5年の間に法令違反などが判明した場合には許可期間を短縮、逆に優良事業者には審査の簡素化で対応。事業者全体の安全意識を引き上げます。
検討委の一連の見直しは、陸の運行管理では日常的に実施されていますが、自主性に任されていた海の運航管理では、新たな人材、資格取得のためのコストが増加し、業界の反発も予想されます。しかし、「安全意識の底上げ」には不可欠という意見が大勢です。
検討委は第5回目の開催を6月24日に予定。7月に中間とりまとめを行った後、年内をめどに最終結論を出す予定です。
【了】
Writer: 中島みなみ(記者)
1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。
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