えっ、砲塔だけ? ド定番「戦艦大和」プラモの新趣向 マニアも嬉しい究極の“割り切り”?

「誰でも簡単」と「超精密」を両立

 2015(平成27)年、フジミ模型はランナー単位で数色に色分けされ、接着剤不要で手軽に組立が可能な「艦NEXT」というブランドを立ち上げます。そして今回、同シリーズの第1弾として1/700スケールの戦艦「大和」をまったく新たに開発しました。

 かつては、プラモデル上級者が徹底的に手を加えるマニアックなジャンルだった艦船模型が、塗装せず接着剤さえ持っていない初心者でも手軽に楽しめるものへと舵を切った瞬間でした。

 このように“開かれたホビー”へと艦船模型を昇華させようと動き始めたフジミ模型は、その後、1/200「装備品」シリーズを2017(平成29)年よりスタートさせます。このシリーズは主砲のみ、艦橋のみ……といった具合に、大型スケールで戦艦「大和」の構造物をブロック単位で模型化したことで、業界内では話題になりました。

 なお、この「装備品」シリーズもランナー単位で色分けされており、一部をのぞいて接着剤不要なため、誰にでも簡単に組み立てられる仕様になっています。「大和の砲塔だけのプラモデルなんて面白い」と感じるライトユーザーに訴求するのに十分なシリーズだといえるでしょう。

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以前に発売されたキットにも付属していたが、ランナーごと組み立てる25mm3連装機銃のパーツ。簡単かつ精密な組み立てが可能(画像:フジミ模型)。

 では、フジミ模型の戦艦「大和」が完全に初心者向けに振り切ったのかというと、そうとも言い切れません。最新キット「超『大和』型戦艦 幻の改造計画 フルハルモデル」は、「帝国海軍」シリーズとして発売されたキットをベースに新規パーツの追加などをしたもので、新設計の25mm3連装機銃のパーツは2020年の発売時に追加されたものです。

 このパーツは機銃の銃身と基部が別のランナーに彫られており、組み立てに際してはランナーのままパーツを組み合わせて、接着剤を流し込んだ後に切り離せば、多数の機銃が一瞬で完成してしまう、という目からウロコの仕組みになっています。しかも、銃身部分はあらかじめメタリックの樹脂で成型されているため、塗装しなくても密度と質感が再現されるようになっています。

 つまり、「誰にでも簡単に組める手軽さ」と「艦船模型ならではの精密感」が両立しており、模型愛好家からすると、極めて面白さを感じる構造になっているのです。

 艦船模型の魅力は、細かいパーツを根気よく組み付けていくことです。しかし、戦艦「大和」ほどの人気アイテムは、多様なユーザーの存在を意識しなくてはならないため、メーカーにとっては売れ筋であるとともに難儀する題材だとも言えるでしょう。

 接着剤で少しずつ組み上げる醍醐味を残しつつも、ランナー同士を1回貼り合わせるだけで複数の精密な機銃が一度に完成してしまうフジミ模型の25mm3連装機銃のパーツは、これからの艦船模型のあり方のひとつの解答という気がします。

【了】

【ホンモノと見比べ】旧日本海軍の戦艦「大和」をいろんなアングルから

Writer: 廣田恵介(プロライター)

プラモデル業界、アニメ業界を積極的に取材するプロライター。『ホビージャパン ヴィンテージ』の巻頭特集を構成・執筆。著書に『我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか』『親子で楽しむ かんたんプラモデル』など。

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