なぜ米空軍オーストラリアへ戦略爆撃機を常駐展開? 選ばれた“おじいちゃん機”B-52

「ハープーン」ミサイル積んで海洋哨戒するか?

 B-52の航続距離をもってすれば、ティンダル空軍基地を拠点にソロモン諸島とスプラトリー諸島の両方向に対して作戦行動を行えるということです。もちろん、必要とあれば中国本土へも足を延ばすことが可能です。

 つまり、今回のオーストラリア北部へのB-52の配備は、アメリカにとって、近年著しい太平洋地域への中国の進出に対する牽制と、同盟国であるオーストラリア周辺海域の防衛強化へ向けた助力という位置付けになるのではないでしょうか。

 もちろん、中国本土に対する核攻撃も可能ですが、それは二義的な政治圧力であり、やはり直接的には、オーストラリアを中心に考えた場合、同国とアメリカの連絡線を脅かせる位置に所在するソロモン諸島と、いつ何時、武力衝突が起こるかも知れないスプラトリー諸島の両方に睨みを効かすことを最優先に考えた結果だと思います。

Large 221109 b52 02

拡大画像

2018年12月、オーストラリアのノーザンテリトリーにあるダーウィン空軍基地にアメリカ空軍のB-52が展開したさいの様子。米豪両国の空軍幹部が握手をしている(画像:アメリカ空軍)。

 ちなみに、かつて戦略核攻撃任務から外されたB-52のなかには、その長い航続距離と大きなペイロードを活かして「ハープーン」対艦ミサイルを搭載し、海洋制圧機として運用されたケースもありました。今回、ティンダル空軍基地に展開するB-52には同様の運用も考えられているのかもしれません。

 B-52自体は、今から70年前の1952(昭和27)年4月15日、ワシントン州シアトルで初飛行に成功した「老兵」です。その現役期間の長さから「機長よりも高齢な機体」、「親子3代で乗り組む搭乗員がいる」とまで評されるほどとか。

 しかし「古い革袋に新しい酒」のたとえのごとく、「枯れた技術」のおかげで信頼性が高いうえに改良や近代化改修によっていまだ第一線にあり続けており、今後もエンジンの換装などさらなる改修を続けながら、2045年まで運用される予定です。もしこれが実現すれば、実に90年間も現役ということになります。

 高い信頼性だけでなく、B-1やB-2といったほかの戦略爆撃機よりも安い運用コストなどから、今回もオーストラリアへの前方展開に引っ張り出された「ご長寿爆撃機ストラトフォートレス」。例えるなら、「老いてますます意気盛ん」といったところでしょうか。

【了】

【写真】オーストラリア北部準州に展開するB-52&B-2戦略爆撃機ほか

Writer: 白石 光(戦史研究家)

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。

3件のコメント

  1. この場合「古い革袋に新しい酒」は例えがおかしくないでしょうか。

    • 私の古い玉袋も実は使用回数的には新品同然だった、みたいなことですかね

  2. B-52は枯れた技術だが
    それにより、信頼性と
    技術の進化にも対応出来た