世界唯一“軍艦を沈めた原子力潜水艦”とは 日本防衛にも活かせるか「海の忍者」の戦訓

疑心暗鬼を植え付けた英原潜の活動

 沈んだ「へネラル・ベルグラノ」は、第2次世界大戦前にアメリカが建造した軽巡洋艦「フェニックス」を大戦後に購入した、いわば中古で、フォークランド紛争時は旧式化していたため、戦力的にはそこまで期待できるほどではありませんでした。

 とはいえ、アルゼンチン海軍では屈指の大型艦であったことから、それが撃沈された同国の衝撃は大きく、以降、フォークランド紛争中における同海軍の作戦行動は、きわめて消極的なものとなりました。

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原潜「コンカラー」の魚雷攻撃を受け、沈没直前のアルゼンチン軽巡洋艦「ヘネラル・ベルグラノ」(画像:帝国戦争博物館/IWM)。

 一方、「コンカラー」は第2次世界大戦後、交戦中に軍艦を魚雷で撃沈した唯一の原子力潜水艦となりました。また、この事例によりイギリスは2022年の時点で、原子力潜水艦の戦果を持つ唯一の国となっています。

 ところで、このところ日本で島嶼防衛が論じられるようになりました。専守防衛を旨としているわが国では、「先に手を出す」ことになるので難しいかも知れませんが、日本領土の島嶼部に敵の上陸艦隊が迫ってきたら、輸送艦に積載されている地上兵力が上陸して分散する前に、輸送艦ごとまとめて沈めるのが最良の手立てとなります。

 そのとき頼りになるのが潜水艦でしょう。海上自衛隊の潜水艦隊は、原子力潜水艦こそないものの、その能力はロシア海軍を抜いてアメリカ海軍に次ぐ世界第2位とも称されるほど。今日も哨戒や訓練のため、静寂とともに海中を航行中の艦があります。

 日本の沿岸と島嶼防衛における海上自衛隊潜水艦の活動には、筆者(白石 光:戦史研究家)としても大いに期待を寄せるところがあります。とはいえ、そのような事態に至らないことが、なによりも重要なのは言うまでもありませんが。

【了】

【写真】英原潜「コンカラー」&アルゼンチン軽巡「へネラル・ベルグラノ」の後ろ姿

Writer: 白石 光(戦史研究家)

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

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