海自「まや」「はぐろ」が臨んだ「はじめて」づくし 弾道ミサイル防衛試験の重要成果
防衛省が発表した「新規機能」 その意義とは
さらに、防衛省の発表によると、21日に実施された実際の迎撃ミサイル発射をともなわないシミュレーション上の迎撃試験において、「まや」と「はぐろ」は「新規機能」を確認したとされています。
具体的には、アメリカ軍が発射した模擬弾道ミサイルを「まや」が探知し、その情報を受信した「はぐろ」がシミュレーション上で迎撃を行った、というものです。日本国内の報道によると、これは海上自衛隊のイージス艦としては初めての「エンゲージ・オン・リモート」の試験ということが判明しました。
「エンゲージ・オン・リモート」とは、前方に展開するイージス艦が探知した弾道ミサイルに関する情報を衛星通信経由で送信し、これを後方にいるイージス艦が受信、そのデータに基づいて迎撃ミサイルの発射、誘導を行う、というものです。後方の艦は、自艦のレーダーで弾道ミサイルを捉えることなくこれを迎撃することになります。
このエンゲージ・オン・リモートの利点は、迎撃ミサイルの能力をフル活用できるということです。
たとえば、北朝鮮から発射された弾道ミサイルを、日本海と太平洋にそれぞれ展開するイージス艦が迎撃するとします。最初に弾道ミサイルを探知するのはもちろん日本海側にいるイージス艦ですが、仮にこのイージス艦がすでに迎撃ミサイルを撃ち尽くしてしまった場合、太平洋側にいるイージス艦に対処をお願いしなければなりません。
ところが弾道ミサイルの高度が低い段階では、太平洋側のイージス艦からは水平線や日本列島の下に隠れてしまい、これをレーダーで捕捉することができません。イメージとしては、日本ではまだ南西の空にある太陽が、ハワイから見ると水平線の下に沈んでいる、というような状況です。これでは、いくら迎撃ミサイルの射程が長くとも、これを発射して弾道ミサイルを迎撃することはできません。
そこで、日本海側にいるイージス艦と弾道ミサイルの探知情報を共有することで、太平洋側の艦では捕捉できていない弾道ミサイルを見えるようにし、これを迎撃できるようにするというわけです。
北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射を受けて、日本の防衛能力向上が注目を集めています。そうした中で、今回の試験ではそのキモともいうべきBMD能力のさらなる向上が実証された形です。
【了】
Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)
軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。
コメント