秘密兵器が敵の手に…とはいえ痛手のみでもなかった「ベレンコ中尉亡命事件」のその後

丸裸にされたMiG-25 開き直ったソ連は…?

 ソ連は強硬にベレンコ中尉とMiG-25の即時返還を要求しますが、亡命機に関する国際慣例に従い、このMiG-25は徹底的に分解、調査されます。ベレンコ中尉はMiG-25の取り扱いマニュアルも携行しており、こうしてMiG-25の実体は白日のもとに晒されました。そしてその調査の結果、謎の高性能機から一転、ただ速いだけで技術的には時代遅れな航空機と評価されます。秘密のベールというよりもむしろ、化けの皮がはがれた、といったところでしょうか。

 ソ連でも対応にてんやわんやでした。レーダーなど電子機器の性能がバレてしまったため、すっかり新しく設計しなおさなければならなくなったのです。これが次のMiG-31につながっていくことになります。

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露空軍時代のMiG-25。ソ空軍と防空軍は別組織で1998年に露空軍に吸収された(画像:Alex Beltyukov - RuSpotters Team、CC BY-SA 3.0 GFDL 1.2、via Wikimedia Commons)。

 しかしMiG-25の秘密が暴かれてしまったことは、ソ連にとって損ばかりでもなかったようです。国家機密として鉄のカーテンの中に隠しておく必要がなくなり、輸出ができるようになったのです。

 最高速度マッハ3という機体は代えがたく、MiG-25の購入希望国は多かったのですが、機密の壁がその販路拡大の障害となっていました。ところが、秘密兵器から一転して有名になったことから、宣伝にも堂々と使えるようになり、ソ連の航空技術と「MiGブランド」を世界市場へ広めることにひと役買うようになります。

 西側でMiG-25は「時代遅れ」などといわれたものの、実際には29個の世界記録を樹立するほどの性能を誇っており、その中でも1977(昭和52)年8月21日に樹立された「ジェットエンジンによる最高飛行高度3万7650m」という記録は、2022年現在も破られていません。

 亡命事件を契機に、さらに購入希望国が増えたともいわれ、こうしてソビエト連邦構成国以外にブルガリア、アルジェリア、イラク、シリア、リビア、インドがMiG-25を購入しました。生産機数は1190機になります。

【画像】当時のパイロットの大変さをうかがわせるベレンコ中尉の「手土産」

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