損失3000両!? ウクライナに“やられた”ロシア戦車3選 最新型も投げ出す→ウ軍が再利用
戦車の数足りなくなって急きょ登板T-62
かくして、最近の主力戦車のT-72B3MやT-90Aを多数失ったロシア軍は、ついに旧式のT-62戦車を再整備して最前線に投入しています。
T-62は、1960年代中頃に実戦配備された、世界で初めて滑腔砲を装備した実用型戦車です。当時の滑腔砲は射距離が延びると急速に命中精度が低下する弱点がありましたが、旧ソ連軍は近距離戦を重視しており、命中精度が多少劣っても装甲貫徹力に優れているなら良しとしたのです。しかしこのT-62、中東戦争などではアメリカ製のM60戦車やイスラエルが独自改良した「ショット」戦車(原型は英「センチュリオン」戦車)などに苦戦を強いられました。
とはいえ、その後も長く旧ソ連/ロシア軍で運用が続けられ、後期のT-62Mでは9M117 「バスティアン」対戦車ミサイルの発射が可能になるなどして大幅な性能向上が図られています。
本来ならT-72の配備が進捗することで退役する予定が立てられており、実際、ウクライナ侵攻前にはかなりの数のT-62が予備兵器扱いとされ、保管に回されていました。それが、ウクライナでの前述したような最新型戦車の損失を穴埋めする目的で整備され、前線へと送られているのです。同車の一部は囮として用いるために無人誘導できるよう改造されたとも伝えられますが、多くはT-72やT-90と同じように主力戦車(MBT)として運用するためのようです。
ただ、ロシアの兵器保管の状況は杜撰(ずさん)で、以前からポケットマネー稼ぎの部品などの横流しも行われてきたため、再整備作業はかなり厄介だとも言われています。
このT-62も、やはりウクライナ軍によって撃破されたり鹵獲されたりしており、伝えられるところでは、再生車や鹵獲車などを集めれば、20両から30両単位の大隊規模の部隊を編成することまで可能な数だとか。ただ、ウクライナ軍としても旧式のT-62に、ただでさえ不足しがちな訓練済みの戦車兵をわざわざ乗せる価値があるかどうかが、悩みどころのようです。
晩秋の「ラスプーチツァ」が凍り、積雪と厳寒の季節を迎えたウクライナ。
現在、ロシア軍は地域によって攻勢と防勢を使い分けているようです。普通に考えれば、敵の懐に飛び込む攻勢にはT-72やT-90といった新しい戦車を投入し、それらを装備した部隊が「抜けた穴」や、旧式であることの弱点を補える伏撃ができる防勢の地域向けにT-62が投入されているのかもしれません。
2022年ももうすぐ終わりますが、2023年も引き続きウクライナの戦況を注視せざるを得ないようです。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
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