英「チャレンジャー2」戦車ウクライナへ 戦場の「ゲームチェンジャー」たりうるか?
「チャレンジャー2」はウクライナでゲームチェンジャーたりうるか?
こうした戦歴や特徴もあり、「チャレンジャー2」は、スペックだけ見ればロシアの戦車と互角以上に渡り合えることが期待できそうです。しかしゲームチェンジャーとなる保証にはなりません。ウクライナ軍が使いこなせるかは別問題だからです。
「チャレンジャー2」は、それまでウクライナ軍が使ってきたT-72系列とは全く違う戦車で、同軍が使用するには訓練と習熟が必要です。乗員も1名多く、装填手が必要です。さらに大きくて重く、「T-72」が42tから46tなのに対して「チャレンジャー2」は69tもあります。ウクライナの道路法規では、道路通行重量を44t以下に規制しているそうです。戦時なので法規がそのまま適用されるわけではありませんが、道路事情を考えると動ける範囲は限定されそうです。
補給整備も問題です。「チャレンジャー2」の燃費はT-72よりも悪く、主砲は、先に紹介したような独特の砲弾を使います。整備方法もT-72とは違います。兵站の負担は増加し、稼働を維持できるかわかりません。
「チャレンジャー2」が供与されるからといって、これが嚆矢となって、ウクライナが強く要望しているM1や「レオパルト2」の供与も実現するかどうかは分かりません。ポーランドが「レオパルト2」の供与を発表したものの、ドイツの承認が必要です。そのドイツは、アメリカが自国製戦車を送ることが承認の条件という姿勢です。
一方アメリカも、下院議長選出の混乱に見られるように、国内政局に影響されそうですし、ロイター通信によるとホワイトハウスのジャンピエール報道官が「どのような装備をウクライナに供与できるかは各国が自ら決定すべきだとバイデン大統領は考えている」と述べるなど、思惑はバラバラです。
年明け早々の「チャレンジャー2」供与の発表は、イギリスの支援姿勢を示す外交アピール効果とともに、春にも予想されるロシアの再攻勢、またはウクライナの反攻という想定される戦局の変化を見据えて、西側戦車の訓練習熟や兵站を整えるなど戦力化に必要な期間を考慮したタイミングだったといえそうです。
西側が供与した「チャレンジャー2」戦車および、M2「ブラッドレー」や「マルダー」歩兵戦闘車からなる機甲部隊と、ロシアのT-72戦車やBMP歩兵戦闘車からなる機甲部隊が直接砲火を交えるという事態になれば、東西の軍関係者が20世紀の冷戦時代に想定していた「夢」を確認する実験場になります。どうやら戦間期は終わり、21世紀の新冷戦時代に近づいているようです。
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Writer: 月刊PANZER編集部
1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。
>粘着榴弾(HASH)
ググッてもHESH(High Explosive Squash Head)かHEP(High Explosive Plastic)しか出てこないけど別物かしら