「中国スパイ気球」なのか…? 3日連続で撃墜 北米で次々に未確認飛行物体が見つかるワケ
システムの自動選別で見つかっていなかった可能性も
レーダーは電波を使って空を監視する装置ですが、その仕組みは放射した電波が飛行物体に当たって生じる反射波を受信することで相手の方位や距離を知るというもの。しかし、レーダーの高性能化によって広大な空域で生じたすべての反射波をオペレーターが人力で確認するのは難しく、近年の監視システムは反射波をコンピューターによって自動選別する形をとっています。ゆえに、監視すべき対象を航空機としていた場合、受信した反射波の中で小さく低速な物体(鳥の群れや雲など)は、逆に不要な情報として自動的に除外されていきます。
これは私たちがインターネットで検索エンジンを利用する時とよく似ているといえるでしょう。たとえば明日の天気を知りたい場合、ただ「天気」と入力して検索してもネット上にある天気という単語が含まれた膨大な情報が洪水のように表示されてしまいます。そこに「場所」や「時刻」といった具体的なフレーズを追加することで、初めて求める天気予報が表示されるようになります。
ダルトン国防次官補は記者会見の中で、こうしたレーダー情報の選別を「フィルタリング」と呼び、ディスプレイに表示されない基準値の事を「ゲート」と説明。そして、現在はその「ゲート」の一部を調整したとも明言しています。これは今回の気球の様な低速でレーダー反射の少ない飛行物体でも、レーダーに表示されるようにしたものと思われます。
現在、北米大陸全体の上空監視を行っているのは、アメリカとカナダが共同で運用する北アメリカ航空宇宙防衛司令部、通称「NORAD(ノーラッド)」です。その監視対象は航空機だけでなく、宇宙空間の衛星や弾道ミサイルまで含まれていますが、今回注目された気球に関してはイレギュラーな存在だったといえるでしょう。
気球は形状や素材が異なるため、レーダーの反射波も航空機と比べて少なくなり、飛行速度も風を利用するので低速です。NORADの監視システムが従来用いていた選別方法では、これら気球が見逃されていた可能性があり、ダルトン国防次官補の「領空をより綿密に調査しています」という発言はその見直しを示唆する発言だと思われます。
今回撃墜された気球と飛行物体は、いずれも地上に落下した残骸を回収し、分析作業が進められています。この作業は飛行物体の所属国を調べるだけでなく、その材質や構造を解析するもので、それにより飛行性能やレーダー反射波の特性などが明らかになる可能性があります。その情報はNORADが警戒監視するうえで役立つことから、今後は似たような飛行物体の発見が続く可能性が高まるといえるでしょう。
【了】
Writer: 布留川 司(ルポライター・カメラマン)
雑誌編集者を経て現在はフリーのライター・カメラマンとして活躍。最近のおもな活動は国内外の軍事関係で、海外軍事系イベントや国内の自衛隊を精力的に取材。雑誌への記事寄稿やDVDでドキュメンタリー映像作品を発表している。 公式:https://twitter.com/wolfwork_info
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