ベトベトしてそう? 陸自74式戦車の「粘着榴弾」が使われなくなったワケ 飛び散るのは弾薬ではなく

74式戦車以外にも撃てる車両アリ!

 なお、このような特性を使えば粘着榴弾は、敵が潜む建物やコンクリートトーチカなどにも使えます。また「ホプキンソン効果」を狙わずに一般的な榴弾としても用いることが可能なため、その場合は機関銃陣地のような地上に露出している目標に対しても使用できます。いうなれば、一種の多目的砲弾といえる存在です。

 加えて、粘着榴弾はその構造上、対戦車榴弾よりも製造コストが安価。さらには、徹甲弾などと比較して初速も遅いことから、砲身に与えるダメージも少ないです。

 ただ、その一方で、装甲板の剥離効果に頼る部分が大きいため、車内に内張り装甲を取り付けることで、このホプキンソン効果を無効化することができます。なおかつ、現代戦車ではほぼ標準となっている複合装甲に対してほとんど効果が見込めないと判明してからは各国での使用頻度が大きく低下しています。

 この流れは陸上自衛隊も同様で、90式戦車や10式戦車が用いる120mm砲弾には設定されていません。74式戦車が搭載する105mm砲には設定があるため、同車では撃つことが可能ですが、それでも粘着榴弾はほぼ使われなくなっています。

Large 230519 hep 03

拡大画像

前方の的へ向け戦車砲の射撃を行う74式戦車(武若雅哉撮影)。

 とはいえ、粘着榴弾は完全に姿を消したのかというと、そうではありません。

 74式戦車の後継として導入されている16式機動戦闘車は、74式戦車と同じ105mmライフル砲を装備します。そのため、必要に応じて粘着榴弾を発射することが可能といえるでしょう。

 装甲の表面にダメージを与える対戦車榴弾や徹甲弾と異なり、装甲の内側を剥離させる粘着榴弾は総火演では使われる機会がなくなりましたが、陸上自衛隊としてはいまだに少数が保管されており、研究目的などで使用される機会があるともいわれています。

【了】

【見れば違いが明らか】現在主流の「対戦車榴弾」「徹甲弾」と消えつつある「粘着榴弾」を見比べ

Writer: 武若雅哉(軍事フォトライター)

2003年陸上自衛隊入隊。約10年間勤務した後にフリーフォトライターとなる。現場取材に力を入れており、自衛官たちの様々な表情を記録し続けている。「SATマガジン」(SATマガジン編集部)や「JWings」(イカロス出版)、「パンツァー」(アルゴノート)などに寄稿。

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。