どうして魅力が薄れていったのか バス乗務員不足 帰結としての「廃止減便の嵐」 賃金upにはメドも?

賃金アップにメドも?

 輸送人員の減少による収入減を人件費の削減でカバーしようとした1990年代までの効率化の流れの中で、バス運転者の給与レベルは下がるところまで下がってしまいました。地方によって差はありますが、おおむね全産業平均に比べて民営バスの賃金レベルは、年収ベースで30~80万円ほど低いのが現実で、人命を預かる仕事にもかかわらず、それに見合った収入が得られないため、バスの運転がどうしてもしたい愛好者以外バス運転者をめざさなくなっています。

 したがって大型二種免許取得の意欲も醸成されず、制度としては2022年の道路交通法一部改正で大型二種の年齢要件が19歳以上、普通免許取得後1年以上に引き下げられましたが、19歳の新採用も急速には進みそうもありません。

 バスを運転できる人はトラックの運転ができますから、本来最も活躍してほしい30~40歳代の運転者は子育てなどにお金がかかるため、より稼げる運送、ダンプ・ミキサーなどの業界に流れて行く傾向にあります。

 つまり給与レベルや待遇が上がれば、一定程度若年層の採用の可能性が上がり、離職に歯止めがかけられると考えられます。現在その原資を確保すべく、ここ20数年行っていなかった運賃改定が各地で進んでいますが、あわせて国レベルでも地域の足を支える担い手の確保という観点から、環境整備や免許取得などについての支援策が望まれます。

 待遇面では“働き方改革”の一環として、2024年4月に自動車運転者の労働時間等改善基準告示が改正され、拘束時間や休息時間について見直しがなされます。これにより乗務員の労働環境は改善されますが、1人あたりの運転時間が短く、連続休憩時間が長くなるので、現状の要員数のままでは乗務員不足に拍車がかかる恐れもあります。

 中には、乗務員の離職率が低い、つまり比較的充足度が高い事業者もあります。一概には言えませんが、そのような事業者はやはり職場(営業所など)の雰囲気がよく、現場の声がトップまで風通しよく伝わっているようです。

 バス乗務員は確かに勤務が不規則で人の命を預かる責任の重い仕事ではありますが、地元で働けて、地元の役に立てるという魅力をもった職場でもあります。事業者サイドも、そこをアピールするとともに、プロの運転者としての高い資質が身につき、誇りが持てるような職場の環境や教育体制の構築などを行う必要があるでしょう。

【了】

【まだマシ…?】これが路線バスの「労働時間と年収」です(画像)

Writer: 鈴木文彦(交通ジャーナリスト)

1956年山梨県生まれ。フリーの交通ジャーナリストとしてバス・鉄道に関する論文や記事を多数執筆。国土交通省や自治体、バス事業者のアドバイザーや委員も務める。著書に『日本のバス~100年のあゆみとこれから』など。

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コメント

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3件のコメント

  1. >40歳未満の保有車が5%にも満たないほど

    ↑保有者

  2. もう人材確保は絶望的だろう。無人運転・自動運転の実用化がますます急がれる。
    本当に実現までは遠い道のりなのだろうか。

  3. 2019年に川崎市営バスが運転手確保のための運賃の値上げ申請を国が認めなかったのが、そもそもの原因だと思う。

    安く使おうとした結果が、今日の運転手不足。
    ラッシュの時間だけ働かせる長時間の休憩=長時間拘束。
    しばしば裁判になる折り返しの時間は無給。
    たとえば、20分走って、10分折返を繰り返すと、10往復しても労働時間は6時間40分、拘束時間は、途中1時間求刑と仮定して、10時間40分。
    また、中小企業が多く、クレームの対応が下手くそで、運転手を苦しめる。

    給料、拘束時間以外にも、道路運送法のクレーム処理、道路交通法の車内事故の部分は、最低限改善しないと、せっかく人が入っても続かないと思う。