え、最後だったの!? 総火演では見納め89式装甲戦闘車のミサイル発射!現場では好評でも消えたワケ
弾体の量産も終了済み?
実は重MAT自体は、扱いやすく優れた性能を持つ誘導弾として、隊員のあいだでは比較的好評だった模様です。弾頭の威力も大きかったことから、敵戦車に命中させられれば、大きなダメージを与えることができる装備として、一定の信頼を得ていました。
しかし、より長射程かつ多用途性に優れた高性能な対戦車ミサイルが登場したことで、それに更新される形で姿を消しました。それは、2011(平成23)年から部隊配備が始まった「中距離多目的誘導弾」です。
中距離多目的誘導弾は、射撃指揮に必要な車両を除くと、高機動車1両だけで完結し、なおかつ、発射後は誘導などせず、いわゆる撃ちっぱなしで良い(すぐに陣地変換に移れる)など、重MATの性能を大幅に凌ぐ高性能ぶりです。
しかも1秒間隔で最大6発を発射できることから、乗員の生存性向上だけでなく多目標への対処能力も有するなど、ある意味、ロシアによるウクライナ侵攻で一躍有名となった「ジャベリン」など目じゃない性能を持っていました。
ただ、中距離多目的誘導弾は、重MATとは全く異なるミサイルのため、とうぜんながら重MATの発射機から射撃することはできません。このことは、重MATを搭載する89式装甲戦闘車に載せられないということを意味しています。
89式装甲戦闘車もそれ以外の部分で、古さが目立つようになってきているため、新型車両で更新できれば良いのですが、後継開発がどこまで進んでいるかは不明です。
これまでの自衛隊の動きを鑑みると、大金をかけて89式装甲戦闘車に中距離多目的誘導弾をフィッティングさせるようなことはせず、重MATの発射装置はそのままで退役まで使い倒すのが濃厚でしょう。
なお、すでに弾体の製造も終わっているといった噂もありますが、こちらについて真相は不明です。ただ、もしそれが本当なら、あとは各地の補給処などにある備蓄分で終わりということでしょう。だからこそ、重MATの射撃も今年で終わりとなったのかもしれません。
とはいえ、来年以降、重MATの射撃が見られないのは確かです。そのことが我が国の国防に影響を与えないよう、しっかりとした防衛力の強化・維持に務めてもらいたいと筆者(武若雅哉:軍事フォトライター)は考えています。
【了】
Writer: 武若雅哉(軍事フォトライター)
2003年陸上自衛隊入隊。約10年間勤務した後にフリーフォトライターとなる。現場取材に力を入れており、自衛官たちの様々な表情を記録し続けている。「SATマガジン」(SATマガジン編集部)や「JWings」(イカロス出版)、「パンツァー」(アルゴノート)などに寄稿。
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