「屋根なし戦車」だと!? いかにも危なそうな兵器を作った米軍の“戦術”とは

戦車退治の専門家になるはずだったが…

 この車両は、当時アメリカ陸軍の最新戦車だったM4中戦車の車体を流用した構造で、オープントップの砲塔を持っていたのが特徴でした。砲塔の屋根がついていなのは、当初の戦車戦術のように現場へ急行できるよう軽量化を図る狙いもありましたが、もっと大きな目的が視界の確保でした。

 むき出しの砲塔から運転手以外の3人の乗組員が目を使っていち早く敵戦車を発見し、有利な位置で待ち伏せや先制攻撃を行いやすくしたのです。なお、砲塔は戦車のように油圧で動かず、コスト削減と軽量化のため手動で動く形式を採用していました。

 アメリカではその後もM18「ヘルキャット」、M36「ジャクソン」と駆逐戦車の実戦投入を行います。砲の威力こそアップしたものの、砲塔をオープントップにすることは共通で、機敏に動き敵の側面や背後を脅かす戦法なども多用しました。ただ、敵戦車に先に発見された場合や対歩兵戦における装甲の貧弱さが仇となったため、戦場に急行し、敵攻撃後は即離脱するというヒット&アウェイ戦法を取るのが絶対条件でした。

Large 230810 ku 06

拡大画像

冬のアルデンヌを疾走するM36「ジャクソン」もちろん砲塔はむき出し、寒そう(画像:アメリカ軍)。

 結局、参戦前のアメリカの思惑とは異なり、エンジンや戦車砲の技術向上により戦車が強力になりすぎたため「戦車の相手は戦車が最良」という結論に達します。

 戦後もしばらくはコストパフォーマンスの面からヒット&アウェイ能力を期待され、1950年代になってもアメリカ海兵隊のM50「オントス」自走無反動砲、1960年には陸上自衛隊の60式自走無反動砲など似たようなコンセプトの車両が登場しますが、その後は歩兵が携帯できる対戦車ロケット弾やミサイルなどの対戦車兵器が発展したため消滅しました。

【了】

【ホントだ! 屋根がない!!】上から見たM10駆逐戦車(写真)

Writer: 斎藤雅道(ライター/編集者)

ミリタリー、芸能、グルメ、自動車、歴史、映画、テレビ、健康ネタなどなど、女性向けコスメ以外は基本やるなんでも屋ライター。一応、得意分野はホビー、アニメ、ゲームなどのサブカルネタ。

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。