戦車の防御に木の板、丸太、トゲトゲ…意味ある? 米軍がM4戦車を“現場で魔改造”しまくったワケ
木の板だけでなく丸太や土のう、予備履帯も
そこで第2次世界大戦中、ヨーロッパ戦域で戦ったM4「シャーマン」戦車は、そのスタンド・オフを狂わせる効果だけでなく、運動エネルギーで装甲を貫こうとする徹甲弾に対してもある程度は補助装甲としての効果が期待できるものとして、予備の履帯(いわゆるキャタピラ)を車体や砲塔にぶら下げたのです。
また、それ以外にも車体に柵を取り付けて大量の土嚢を積み上げたり、ログハウスのように丸太を積んだりしてスタンド・オフを狂わせるといった工夫を施していました。特に後者は、副次的に泥濘や積雪からの脱出時にも、その丸太を履帯の下に敷くなどして利用できたそうです。
一方、太平洋戦域のM4「シャーマン」戦車は、肉薄攻撃を得意とする日本軍と戦うため、同軍ならではの自殺的兵器である刺突爆雷や、磁石で吸着するタイプの爆雷、梱包爆薬への対策を施します。車体に木板を張ったり、車体と木板の隙間にさらにコンクリートを流し込んだりして、被害を軽減しようとしていました。
これらの改造は主に海兵隊所属の戦車で多く見られましたが、丸太の積み重ねに関しても、ヨーロッパ戦域と同じく行っていました。
さらには、日本兵が車上に乗ってくるのとスタンド・オフを狂わせる両方の目的で、砲塔や車体の上面、乗員用ハッチなどに、細く短い鉄筋をハリネズミのごとくびっしりと植え込んだ例などもあります。
戦車兵に限らず、命がけで戦っている兵士にとって、相応の努力をすれば生存率が上がる即興の改造は、たとえ傍目には仕上がりがみっともない、すなわちカッコ悪くなるようなものであったとしても、試してみる価値があったといえます。
それで、わずかでも生き延びられる確率が向上するなら、なりふりかまわず行うのはヨーロッパ戦域でも太平洋戦域でも一緒です。ある意味では、それが最もわかりやすく写真で残っているのが、アメリカ軍のM4「シャーマン」戦車だったといえるでしょう。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
日本鬼子を捻り潰すには十分です