アゼルバイジャンとアルメニア「泥沼の100年抗争」 均衡を崩したウクライナ侵攻
アルメニアは直近まで合同演習をやっていたばかり
長引いている両国間の武力対立ですが、旧ソ連に属していた国だけに、どちらの国の軍隊も旧ソ連・ロシア系の装備を運用しています。たとえば戦車はT-72系列のものが多く、航空機もアゼルバイジャン空軍はMi-8やMi-17のようなヘリコプター、MiG-29戦闘機やSu-25攻撃機を保有しています。一方、アルメニア空軍は規模が小さく、わずかな機数のSu-30戦闘機やSu-25攻撃機を保有しているにすぎません。
このように、兵力面で比べるとアルメニアはアゼルバイジャンよりも劣勢です。しかしアルメニア軍将兵の士気はきわめて高く、兵力は多くとも将兵の戦意に欠けるアゼルバイジャン軍に何度も勝利。かなりの数量の戦車や装甲戦闘車両、火砲などをアゼルバイジャン軍から鹵獲(ろかく)していると伝えられています。両軍とも同じ旧ソ連・ロシア系の兵器なので、整備・調整のうえで再使用できるというのが強みになっているようです。
このような情勢下、2022年9月にロシアがウクライナへ侵攻を開始し、事実上の戦争が始まったことで、ナゴルノ・カラバフ地方の緊張はさらに高まりました。それまでロシアはアルメニア寄りの姿勢を示し、一方のアゼルバイジャンはトルコなどが支持する構図となっていました。ところがウクライナ侵攻が勃発したことで、ロシアはそれまでのようにはアルメニアを支持できなくなっていました。
これに不満を表明していたアルメニアは、なんと2023年9月11日から20日にかけて、アメリカとの合同軍事演習「イーグル・パートナー2023」を自国領内で実施しています。この事態を受けたロシアは、よりにもよってウクライナ戦争で対立しているアメリカと合同演習するとは、との思いで不快感を表明。
今回、こうした状況下に、アゼルバイジャンが対テロ作戦を開始したわけです。そして早くも20日の時点で、ロシアの仲介によりアルメニアとの停戦が成立しました。しかし紛争の根本的原因が解消されたわけではなく、継続中のウクライナ戦争との絡みもあり、アゼルバイジャンとアルメニアは、今後も武力衝突する危険性をはらんでいるといえるでしょう。
両国の動向を注意深く見守っていく必要がありそうです。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
コメント