「羽田新ルート」このままでいいのか 都心通過なぜ必要? "滑走路1本で離着陸”リスクは衝突事故で浮彫りに
「羽田新ルート」がこのような経路になった背景
この新飛行経路が都心部を通過せざるを得なかったのは、旧式の着陸誘導装置を採用したことが背景のひとつにあります。
羽田空港には長年、半世紀以上前から使用されてきた「ILS(計器着陸装置)」という着陸進入のサポートシステムが採用されました。このシステムは電波の直進性を利用しているため、滑走路までの進入路に長い直線を設定する必要があります。また、ILSは滑走路の端などに大掛かりなアンテナを設置して航空機を誘導するために電波を出し続ける必要があります。そのため、導入コストも維持費も高額です。
いま、世界では次々にILSを廃止して衛星を利用した新方式の着陸誘導システムへの置き換えが進んでいます。新しい誘導システムを用いれば進入路は長い直線である必要はありません。しかも最新の方式は格段に精度が向上しているため悪天候時にも使えるという大きなメリットがあります。
現在の「羽田新ルート」は、南風運用時の進入経路では、この新たな着陸誘導システムを用いた進入方式がすでに導入されています。ですが、もっと早くからこの新しいシステムを採用していれば、経済的に、かつ都心部を避けた進入路が設定できた可能性があるのです。
また、「羽田新ルート」用に新たなILSアンテナが設置されたため、A滑走路ではおよそ480m、C滑走路ではおよそ400mそれぞれ着陸に使える滑走路の有効長が短くなってしまいました。ここまでして時代遅れのILSを設置する意味があったのか疑問です。
一方、多くの航空機が発着するロサンゼルス国際空港では1991年2月1日、スカイウエスト航空のコミューター機が離陸のため滑走路に入っていたところへ着陸したUSエアのボーイング737が衝突する事故が起きました。この事故では23人の尊い人命が失われました。この事故からの教訓として、同空港は離陸と着陸を別の滑走路を用いて運用することになりました。
この事故に酷似するのが、2024年1月に羽田空港で発生したJAL(日本航空)機と海上保安庁の衝突事故です。このときは運用こそ南風運用ではなかったものの、潜在的にはこの「一本の滑走路で離着陸機両方をさばく」同空港の滑走路運用のルールが持つリスクを浮き彫りにした形です。ちなみに、事故が起きた羽田空港のC滑走路は南風・北風ともに、離着陸両面に対応しなければならない場所です。
羽田空港では今後、一層のインバウンド需要の増加が見込まれています。安全性を維持しながら発着数を増やしてゆくためには、海外の事例も参考にし、新たな飛行ルートの見直しと、離陸用と着陸用とに分けた滑走路の運用方法が望ましいと筆者は考えています。
【了】
Writer: 中島二郎(航空アナリスト)
各国の航空行政と航空産業を調査するフリーのアナリスト。
コメント